「ニュースを伝える怖さ」に気づいた柴田理恵は立派だった

『杉江義浩』 2018/08/13

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杉江義浩(ジャーナリスト、放送プロデューサー)

 最近はテレビのワイドショーや報道番組に、ジャニーズをはじめ、たくさんの芸能人が出ています。番組に出演させるのはいいけれど、ニュースを扱う場合に、彼ら芸能人の立ち位置を間違えると、番組自体が大変なことになってしまいます。さらに言えば番組自体と言うよりも、テレビというメディア自体が大変なことになると、私は思っています。

 今年4月に明らかになったTOKIOの元メンバー、山口達也さんの強制わいせつ事件を受けて、『ビビット』(TBS系)でニュースキャスターを務める同メンバー、国分太一さんが番組冒頭で謝罪をする光景に、私は強い違和感を覚えました。『ビビット』を見たのは、その時が初めてでしたが、国分さんに対して「なんで君がニュースキャスターをやっているの?」という違和感でした。

 国分さんとはお仕事をご一緒させてもらったこともあり、実に魅力的な好青年だと感じていましたが、そもそも報道番組でニュースを伝えるのは「ニュースの素人」にはできるわけがないと私は考えています。彼らは歌ったり踊ったり、人を楽しませることのプロであり、ニュースのプロではありません。ニュースのプロでなければ、ニュース解説の聞き手役になることはあっても、ニュースを伝える側には立つべきではないのです。

 6月に同じジャニーズのアイドルグループ、NEWSの小山慶一郎さんと加藤シゲアキさんが、未成年の女性に酒の一気飲みを煽っていたという事実が週刊文春の報道で明らかになり、大きく騒がれました。このときにも小山さんが『news every.』(日テレ系)のメーンキャスターを務めていたこと、加藤さんが『ビビット』にコメンテーターとして出演していたということで、問題が大きくなりました。

 私は『news every.』も『ビビット』もあまり見ていませんでしたが、これほどまでにニュースキャスターという仕事を、畑違いのアイドルやお笑いタレントに任せている、最近の民放各局のやり方に、危機感を募らせました。視聴率を稼ぎたいのは分かるけど、報道機関としてやっていいことと悪いことがあり、その一線を越えてしまったのが、素人にニュースを扱わせるという、昨今の民放の「ニュース情報バラエティー」の傾向だと思うのです。

 別にどんな芸能人がどんな不祥事を起こそうと、私は個人的に何の興味も関心もありませんが、日本の報道番組がその作り方からしておかしな状況に陥っているのだとすると、テレビ屋の一人として黙っているわけにはいきません。
元NHKキャスターの池上彰氏
 最近の日本の報道番組は、記者が書いたニュース原稿をアナウンサーが読み上げるだけの「ストレートニュース」よりも、ニュースを伝えた上で、それをより分かりやすく解説し、興味深くなるようワイドショーに仕立てた「ニュース情報バラエティー」の方が増えています。それ自体は決して悪い傾向ではないと思います。芸能人やタレントが参加することにより、ニュースがより身近で親しみやすいものに感じられるからです。

 私自身もかつてNHKでジャーナリストの池上彰さんと苦楽を共にして『週刊こどもニュース』という、ニュースと子供向けバラエティーを合体したような番組を開発し、8年間にわたって担当した経験があります。初代お母さん役を女優の柴田理恵さんにお願いし、お父さん役の池上彰さんが家族にニュースをかみ砕いて、興味深く解説するという、当時としては斬新なスタイルだったと思います。

 ストレートニュースの部分は、豚のアニメキャラクターが伝える形でしたが、ナレーションはNHK報道局から正式に上がってきたニュース原稿を使いました。それをNHK報道局のベテラン記者がリライトした、オリジナルのニュース原稿に仕上げ、声優の龍田直樹さんが正確に読み上げる、という手法をとりました。

 NHK内部では、ニュースとは報道局の記者が書いた原稿をアナウンサーが読み上げる、または記者自身が読み上げるもの、という伝統がありましたから、アニメキャラクターがニュースを伝えるなどもってのほか、と上層部からの猛反対に遭ったこともあります。しかし、ベテラン記者が書いた原稿を一字一句違わず読み上げる、ということでニュースとしての正確性を担保し、番組名には「ニュース」の4文字を入れることが何とか許されました。

 また、番組にはニュースを受けて、その解説や家族同士の会話をするコーナーがあり、ここで交わされる芸能人のフリートークをどう扱うかも問題になりました。私たちの場合は、お父さん役の池上彰さんが現役記者であったため、お母さん役が女優でも、子役が勝手にしゃべろうとも、そのコーナーはあくまでも池上彰さんによる記者解説の変形であるということで、NHK上層部を説得しました。

 今では多く見られる「ニュース情報バラエティー」の走りのような番組でしたが、あくまでもニュースを伝えるのは、ニュースのプロである記者、そして芸能人たちはニュースの受け手の役割、と明確に立場が決められており、その関係性の中で成り立っていたという点で、最近多く見られる芸能人がニュースを伝える番組とは異なります。

 ちなみに、池上彰さんと試みた『週刊こどもニュース』も、家族の会話という演出を長く続けるうちに、「ジェンダーイクオリティ」の問題に気がつきました。いつも物知りなのは男性である父親で、女性である母親は教えてもらう立場、という演出はジェンダーの観点からしていかがなものか、という問題です。

 池上さんの提案で「たまには母親がニュースを解説する側になる日もあって良いのではないか」という話になり、さっそくそのような演出を試みました。お母さん役の柴田理恵さんを解説役とし、生放送の進行表は私が書きました。柴田さんは、一週間かけてみっちりとその週のニュースについて勉強し、池上さんからニュースの背景や問題点についてレクチャーを受け、万全の体制で生放送に備えたのです。

 ディレクターの私から見ていても、気の毒になるくらい熱心に、柴田さんは勉強していましたが、いざ生放送の本番を迎えると、結果はボロボロでした。実を言うと、この試みは一回限りでおしまい。柴田さんからは「二度とニュースを伝える役などやらせないで欲しい」と哀願されました。それほどまでに、テレビでニュースの生放送を伝えるという仕事のプレッシャーは大きく、インテリ女優でも押しつぶされるほど重い責任があったのです。
女優でタレントの柴田理恵さん
 今のアイドルやお笑いタレントで、平然とニュースキャスターを引き受ける人たちは、この重責を感じていないのだろうかと、私から見ると逆に不思議に思います。画面に映らないところで出されるカンペ(カンニングペーパー)を「ただ読み上げていれば良い」と言われているのでしょうか。自分の言葉で解説したり、感想をコメントしたりするときに、十分なニュースの知識を持って語れているのでしょうか。

 「ニュース情報バラエティー」という番組のジャンルは、『週刊こどもニュース』のような番組を、どう分類したら良いのだろう、と後になって私が考え、定義したジャンルに過ぎません。しかし、このような報道番組からワイドショーまで含めた、ニュースに関する番組を作る上で、メーンキャスターはカンペを読むのではなく、自分の頭で考えた、自分の言葉でニュースを語らなければ、番組として成立しないと思います。

 『週刊こどもニュース』以前にもニュースキャスターが、分かりやすくニュースを解説する番組はありました。『ニュースステーション』(テレビ朝日系)の久米宏さん。『NEWS23』(TBS系)の筑紫哲也さん。それぞれアナウンサー出身、新聞記者出身と経歴は異なりますが、どちらも報道機関で揉まれてきた、たたき上げのジャーナリストであり、ニュースのプロでした。古舘伊知郎さんも、ご本人はニュースのプロではないと謙遜されているようですが、ニュースについて極めて深く突っ込んだ取材をされた上で、自分の言葉で伝えていました。

 こういった人たちから伝えられるニュースは、ずっしりと重みがあり、信頼感があり、また視聴者が考えさせられる深みを持っていました。私たちが優れた「ニュース情報バラエティー」をテレビで見て楽しむとき、そのニュースの背景について考え、そのニュースの真相について自分なりに考える、というように知的好奇心をフル回転することによって、世の中の出来事をより深く知る喜びを味わっているのです。

 視聴者の知的好奇心がいかに満たされるのか、そのレベルはニュースを伝えるメーンキャスターが、そのニュースについていかに深く知識を持っているのか、によって自ずと決まってきます。メーンキャスターの知識が軽く薄っぺらなものであれば、視聴者の論考も軽く薄っぺらなものにしかなりません。跳んだりはねたり、踊ったり歌ったりする訓練しか受けていないアイドルや、人を笑わせることが本業のタレントが、カンペを読んで伝えるニュースには、厚みも信頼感もなく、視聴者に論考を促すレベルには至りません。

 いまだに池上彰さんの解説する「ニュース情報バラエティー」が、飛び抜けて大きな信頼度と、高い視聴率を保っている理由は、彼自身の中に蓄積されたニュースに関する膨大な知識と、それを裏打ちする長年の取材経験があるからです。

 誰もが池上さんのレベルにならなければニュースキャスターを務められない、という訳ではありませんが、十分な取材経験と知識を持ったニュースのプロが他にもいるはずです。そういった人がメーンキャスターを務める、大人の「ニュース情報バラエティー」をもっと見てみたいと、私は常々思っています。アイドルや芸能人は聞き手であったり、質問者であったり、といったニュースの素人の代表として出演してくれればいいのです。

 大好きなアイドルがメーンキャスターを務めているから、という単純な理由だけでニュース番組を見ていると、日本人はどんどん思考力を失っていくことでしょう。そうして世の中の真相を深く知ることもせず、様々な事象について表面的で浅薄な知識しか持たず、自分自身の頭を使って自分の意見を語ることもできない愚衆が増えることになり、為政者にとっては御しやすい国になるかもしれません。
「ここがポイント‼池上彰解説塾」(テレビ朝日系)の収録後会見した池上彰氏=2014年4月
 しかし、国民がニュースを見て自分なりに論考を深め、自分なりの意見を持つ訓練を普段からしておかなければ、真の民主主義を実現することはできません。テレビというメディアが何のためにあるのか、エンターテイメント以外の重要な使命とは何なのか。それは報道機関として、世の中で起きている事実を的確に伝え、批判すべき所は批判できるように、主権者たる国民に深い論考を促し、鋭い判断の材料を届けることです。

 アメリカではCBS、NBC、ABCの三大ネットワークで、夕方に放送する全国ニュースに限っては、アンカー(ニュースキャスター)1人で進行します。彼らは国民から高い信頼を寄せられており、「大統領が勝手なことを言えない者がこの国に3人だけいる。三大ネットのアンカーだ」という格言まであります。

 日本でもそれくらい信頼感のある、骨太な本物のジャーナリストに活躍してもらいたいものです。少なくとも、踊ったり歌ったりするアイドルではなく、本職としてニュースの経験を積んできたニュースのプロが、ニュースキャスターの役割を務める、まっとうな報道番組のあり方を、今こそ取り戻すべき時ではないでしょうか。

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