木村悠(元世界ライトフライ級王者)

 ボクシングといえば、プロボクシングを思い浮かべる人が多いだろう。そもそもプロボクシングとアマチュアボクシングは別々の組織が運営しており、プロは世界チャンピオン、アマはオリンピックを目指す。

 アマチュアボクシングが注目されるのは、やはりオリンピックの時ぐらいで、日ごろはプロの陰に隠れて目立たない。だが、今そんなアマチュアボクシング界が揺れ、世間の注目を浴びている。プロ、アマ両方の経験を持つ筆者にとって、アマが今回ほどメディアに露出することがなかっただけにその異常さに驚いている。

 今回の問題は、内部告発によって、会長である山根明氏の助成金不正流用だけでなく、暴力団との関係まで明るみになった。決して良い注目のされ方ではないが、アマチュアボクシング界が変革する契機になればと思っている。では、なぜこのような事態になったのだろうか。

 筆者自身、高校と大学の7年間、アマチュアボクサーとして活動してきた。そもそもアマチュアボクシングは限られた人たちで構成される非常に狭い「ムラ社会」だ。筆者はライトフライ級という一番軽い階級だったが、全国大会でも20人ぐらいで30人出場していれば多い方だ。

 そのため、地方の予選をクリアして3回から4回ほど勝てば決勝に進むことができる。人数が少ないため社会人の全国大会は大体同じメンバーで決勝が争われる。全国大会で優勝または上位に進出すると全日本王者となり、全日本のメンバーに選出される。

 各階級で3人ほど選ばれ、全部で25人前後のトップ選手がオリンピックの強化指定選手になる。選手の選出や海外遠征、合宿など、それらを取りまとめているのがボクシング連盟である。他のスポーツに比べてコアな社会だけに、連盟というより「会長」のさじ加減一つでどうにでもなる。
メキシコのペドロ・ゲバラに判定勝ちし、WBC世界ライトフライ級王者となった木村悠氏=2015年11月
メキシコのペドロ・ゲバラに判定勝ちし、WBC世界ライトフライ級王者となった木村悠氏=2015年11月
 こうした構造がある限り、選手は閉塞的な「ムラ社会」の中で、会長の意向や組織に翻弄され続けることになり、これでは競技に専念できる環境があるとはいえない。

 筆者のアマ時代、山根氏は日本ボクシング連盟の理事の一人で、特に存在が知られていたわけではなかった。ゆえに、2011年に会長に就任して以降、権力を振りかざすようになったのだろう。当時の会長は山根氏のような存在ではなかったが、「山根判定」や「奈良判定」などと言われる、会長の「権力」が反映されたものは確かにあった。ただ、それに反論できる雰囲気はまったくなく、こうしたものはある意味「当たり前」のような空気があったのも確かだ。

 筆者が思うに、今回の騒動は山根氏という特異な人物の所業によるところが大きいが、根本を考えれば、古い日本の企業体質とよく似ている。会社のトップである社長が絶対的な権力を持ち、幹部や役員は社長の取り巻きでしかない。社長の指示が絶対で、部下は意見を言うことすらはばかられる傾向が強い。

 これはスポーツの世界でも同様で、日大のアメフト部問題でもそうだったが、選手は試合に出たいがために、何にでも従うという選択しかない。そのためトップに権力が集中し、好き勝手できてしまうのである。