一つは、心理学でいう「ペーシング」である。ペーシングとは、他人とコミュニケーションを取る際に、相手の話し方や速さ、表情、感情、興奮状態などに自分を合わせることであるが、山根氏はそれをしない。つまり、相手がどのような聞き方や話し方であっても、自分のリズムを崩さないのである。

 ペーシングをすると、相手との心理的距離が縮まり、互いの考えや言いたいことを表明しやすくなり、スムーズな会話のキャッチボールが促進される。一方で、特に二者に上下関係がある場合、ペーシングをしないと、下の立場の人間は話を聞く時間が長くなることが多い。さらにいえば、上位にいる話し手に一方的にペースを合わせて、話をより注意深く聞かざるを得ない関係性に陥っていくのである。

 そうすると、話している人間は、言説を聞いている側があたかも自分に同意したり、共感しているかのように錯覚していく。そして、権力者はますます自分の言動に自信を持ち、ペーシングをせず、一方で下の立場にある人はさらにペースを合わせざるを得なくなる、という悪循環が形成されていく。おそらくこの関係性が、山根氏と幹部や連盟の構成員の間にもあったのであろう。

 二つ目は、山根氏が「イエスセット」と呼ばれる話法を頻繁に用いていることにある。会見で、山根氏は「〇〇なんですよ!」「ね!」「しました!」と、語尾を強めて発言することが多い。

 特に感情が高ぶった際に「ね!(そうでしょ?)」と、同意を求めるかのようなクセがある。そうなると、話を聞いている側は、同意をしていなくても「一応話は聞いている」「あなたが言っていることの内容は理解しました」という意味で「はい」と相づちを打ってしまう。実は、これを続けると、最終的な結論に対して、話の受け手側がイエスと言いやすくなることにつながるのである。

 これは、心理学における「一貫性の原理」が背景にある。人は、形式的であっても何度も同意や相づちを示していると、反論しにくくなるのである。

2018年8月2日、大阪市内で
取材に応じる日本ボクシング連盟の山根明会長
 さらに、「イエス(はい)」という肯定的な反応を積み重ねることで、「相手が言っていること」がイエス(言ってることは理解しました)から、「相手の存在自体」がイエス(あなたに同意します)になってしまうことがある。

 山根氏は十中八九、イエスセットを意識的に使っているわけではない。むしろ、恫喝(どうかつ)的なコミュニケーションスタイルがベースにあって、結果的に相手を誘導したり、同意させたりする術として確立されたのであろう。

 三つ目として挙げられるのは、質問に対しての山根氏の答えが、かみ合っているようでかみ合っていない場合が散見される点である。もちろん、全く関係のない話というわけではないが、「ん? なんの話だ?」と違和感を抱かせる話の展開が非常に多い。加えて、突然怒り出したり、脈絡なく感情が高ぶったりすることもおそらく日常的にあるのだろう。