しかし、「広義の強制」という捉え方なら、強制した行為者もさまざまだ。昔は、前金をもらって子供を奉公に出す習慣があった。売春などの醜業もこれに含まれた。

 その場合は貧困に強いられたと言える。また、そのような契約を結ぶ権利は親にしかなかったから、親に強いられたともいえる。娘が嫌がっても、人身売買を生業とする女衒(ぜげん)が強引に連れ去ったケースもあったそうだから、女衒も強制の行為者である。

 朝日新聞の回答があまりにも曖昧であったため、われわれは追加質問をすることにした。この「強制の行為者」をめぐる問題に関しては次のように質問した。

 Forced to provide sexという表現の意味は「意に反して性行為をさせられた」という意味だとのことですが、forcedと書けば、意に反していたのは当然で、この表現の読み手、とりわけ英語を母語とする読者の通常の言語感覚からすれば、たとえby XXXという受動態の構文における行為者の明示がなくとも、私どもが指摘している「軍隊による物理的な強制で性行為を強いられた」という印象と何ら変わりがありません。そこで改めてご質問いたします。御社が使用するforced to provide sexというフレーズにおいて、「女性の意に反して性行為をさせた」のは誰なのでしょうか?明確にお答え願います。


 私の手元には国会図書館で見つけた一本の記事がある。昭和30年8月15日発行の朝日新聞朝刊だ。終戦10周年特集として東京本社で開催された座談会の記録である。タイトルは「終戦直後の苦心」「調達命令乱れ飛ぶ」とある。占領下で連合国軍総司令部(GHQ)の命令を受け、東奔西走した人々の苦労話披露会という趣だ。

参加者は以下の通りである。

田中栄一 内閣官房副長官
与謝野光 東京都衛生局長
福田赳夫 民主党衆議院議員
曽禰 益 右社参議院議員
大池 真 衆議院事務総長
昭和30年8月15日の朝日新聞朝刊に掲載された終戦10周年特集の座談会
昭和30年8月15日の朝日新聞朝刊に掲載された終戦10周年特集の座談会
 与謝野光は与謝野晶子の長男で、終戦時は東京都防疫課長だった。座談会で与謝野は次のように語っている。

 9月の14、15日だったか、マックアーサー司令部から呼び出しがかかったので、行ってみると実は君を呼んだのはこういうわけだといって大きな東京の航空写真を出して、実は折いって頼むのだけれど兵隊のために女の人を世話してくれという。(笑)よく調べたものでそういう場所は地図にちゃんと点が打ってある。将校にはどこ、白人兵にはどこ、黒人兵にはどこがいいだろうか相談に乗ってくれという。将校はいいけれども、黒人兵には僕も弱った。後で恨まれるだろうと思って。(笑)仕方なしにある場所を考えたんだが……。そのとき性病でもうつされては困るから予防措置をやれといわれたが薬がないから責任が持ち切れないというと、よろしい、薬は必要なだけやろうといってダイヤジン、ペニシリンなどを幾らでも無料でくれて、こういう方式で検診治療をやれ、責任は都知事が持てといったから仕方なしに花柳界に診療所をつくって都の職員の手で検診治療をやった。