2018年08月15日 12:35 公開

ロンドン・ウェストミンスターの議会議事堂前で14日午前7時半ごろ(日本時間午後3時半ごろ)に車が防御柵に衝突した事件で、政府筋は逮捕された運転手の身元をスーダン出身の英国人サリー・カーター容赦者(29)だと明らかにした。

カーター容疑者が運転していた銀色のフォード「フィエスタ」は、通行人や自転車をはねながら走行し、3人がけがをした。

カーター容疑者は、英秘密情報部(MI5)や対テロ警察には知られていない人物とみられるが、地元警察には把握されていたもよう。

ロンドン警視庁によると、同容疑者は逮捕後、警察への協力を拒否しているという。

警察は、イングランド中部バーミンガムやノッティンガムで捜索を行っている。

この事件では男女2人が病院で手当を受けたが、すでに退院した。もう1人は現場で手当てを受けた。

ロンドン警視庁で英国のテロ対策を統括するニール・バス警視監補は声明で、「意図的な犯行とみられることやその手段、象徴的な場所で発生したことから、我々はこの事件をテロとして捜査する」と発表した。

また、ロンドンや英国全土に「現時点でさらなる危険があるという情報はない」と付け加えた。

車には逮捕された男だけが乗車しており、武器は見つかっていない。

英政府は緊急治安閣僚会議(COBRA)を開いた。テリーザ・メイ英首相は、「市民を守るため危険な状況に飛び込んだ」緊急サービスのプロ意識と「すばらしい勇気」を称えた。

メイ首相は市民に対し、警戒しつつも「いつも通りに過ごしてほしい」と話した。

「ここ数年で2回、我々の民主主義のホームであり、寛容と自由の力強いシンボルである国会議事堂の目の前で痛ましい事件が起きた」

容疑者の身元は公表されていないが、ロンドン南部の警察署で取調べを受けており、車両も捜索されている。

またサジド・ジャビド内相は「対テロ警察やセキュリティー・サービスから受け取った説明では、捜査は継続中で、事件に関するさらなる情報を掴むために全力を挙げている」と話した。

「事件について結論を急ぐべきではない」

多くの目撃者が、米フォードのフィエスタが現場のパーラメント・スクエアを西方向に走行中に反対車線へそれ、意図的に通行人をはねていったと話している。

BBCが公表した事件当時の映像には、車が車道の安全地帯を乗り越えて走り、防御柵に衝突する様子が映っている。警官が車から逃げようと防御柵を乗り越える姿も見てとれる。

警察は、事件以前の車の動向についても詳細を発表した。

車は13日の夜にバーミンガムからロンドンへ向かい、日付が変わった頃にロンドンに到着した

その後、午前1時25分から5時55分まで、トッテナム・コート・ロード付近にいた。6時ごろから事件発生までの間、ウェストミンスターやホワイトホール地域を走っていた。

事件から数時間後まで、地下鉄のウェストミンスター駅は閉鎖され、付近のミルバンク、パーラメント・スクエア、ビクトリア・タワー・ガーデンズなどの道路も封鎖された。

一方、現場は現在も警察のテープが張り巡らされ、白いフェンスで目隠しがされている。議会は現在、開会していない。


「自分の命のために走った」―目撃者の証言

現場近くのミルバンクで勤務するBBC職員のバリー・ウィリアムズさんは、「たくさんの叫び声が聞こえて振り返った」と話した。

「車が反対車線を走って行って、信号待ちの自転車に突っ込んでいった」

「それから元の車線に戻って速度を上げ、フルスピードで柵にぶつかった」

「小さな銀色の車で、すごいスピードで門に突っ込んだから、車が乗り上げてバウンドした」

「すぐに警察が飛びかかった。警官2人が防御柵を飛び越えて、それから機動隊の車両が現場に駆けつけた」

クリスティーさんは「車が反対車線を走ってきて、自転車に乗っていた20人くらいをすり抜けて衝突した」と放した。

ジェイソン・ウィリアムズさんはBBCラジオ4の番組で、運転手は「時速60キロ以上で走っていた」と語った。

「車から煙が出ていた。人々が地面や道路に横たわっているのを見た。実際に車にはねられたのかどうかは分からない」

「少なくとも10人が横たわっているのを見た。現場から立ち退くように言われ、自分の命のために走った」

衝突の瞬間を見たエワリナ・オチャブさんは、「意図的なものに見えた。車はスピードを出しながら柵に向かっていった」と語った。

「私は道の反対側を歩いていた。騒音と叫び声が聞こえた。振り返ると銀色の車がすごいスピードで柵に近付いていった。もしかしたら歩道に乗り上げていたかもしれない」


サディク・カーン・ロンドン市長は、警察と緊密に連絡を取っているとした上で、「我々の街で起きる全てのテロ行為を完全に非難する」と述べた。

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、緊急サービスの勇気が「我々の安全を日夜、守っている」と話した。

また、ドナルド・トランプ米大統領はツイッターに「ロンドンでまた別のテロ攻撃(中略)この動物たちは狂っている。強さと厳しさを持って立ち向かうべきだ!」と投稿した。

ウェストミンスターの議事堂は、セキュリティー対策として鉄とコンクリートでできた柵に囲まれている。2017年3月にハリド・マスード容疑者がウェストミンスター橋で歩道の通行人を次々とはね、4人が亡くなった事件の後に設置された。

首相の報道官によると、2018年6月末までに可能性のあるテロ計画676件について捜査が行われた。

また2017年3月以降、13件のイスラム過激派による計画と4件の極右による計画が阻止されたという。


<解説>ドミニク・カシャニ、BBCニュース国内問題編集委員

国会議事堂のセキュリティー対策は2001年以降、段階的に強化されてきた。2005年7月7日に起きた同時爆破事件の後には、ウェストミンスターを「強化する」ため、爆弾にも対応する防御柵が導入された。

このほか、低い城壁のような黒い壁が議事堂そのものを取り囲み、武装した警官の姿も増えた。

訪問者は、武装警官が怪しい人物を見つけやすいように設計されたS字カーブのような道を通らなくてはならない。セキュリティーの大きな弱点となっているのはメインの車両ゲートで、これは2017年3月の攻撃で明白になった。

この事件を受けて内部でセキュリティーの再評価が行われたが、変更点は伏せられている。しかしロンドン市民から見れば、このエリアを警備する武装警官が増えたのは明らかだ。

議員にとってテロは常にある脅威で、新しいものではない。1979年には、エアリー・ニーブ議員がアイルランド民族解放軍(INLA)が自動車内に設置した爆弾によって、国会議事堂敷地内で殺害されている。

セキュリティーと英国の民主主義の中心を人々に開放することのバランスをどう取るか。ジレンマは当時と同じままだ。


(英語記事 Westminster car crash treated as terror attack