本来、教師は生徒の味方だ。だからこそ、多くの人が社会に出てからも、何か困ったことがあったときに恩師に相談する。ところが、医学部は違う。教授は医局の「経営者」でもある。一人でも多くの若手を囲い込みたい。いろんな理屈をつけて、縛り付ける。それが分かっているから、在校生の時も、もちろん卒業してからも、教授に相談したことは一切ない。

 その典型が専門医制度だ。この制度では、若手に「専門医」という肩書をチラつかせ、医局員として働かせている。それにしても「専門医」とは何なのだろう。専門性とは一生かけて取得していくものではないのか。たった数年で取得できるはずがない。まして、学会費を支払い、学会に参加し、決まった症例数と決まった年数をクリアすれば取得できるなんて、どう考えてもおかしな話だ。

 ただ、これは医学部教授から見れば有り難い。最も働いてくれる30代前半までの医師を囲い込み、後期研修を終えれば、「雇い止め」することができるからだ。そして、新たな若手を「教育」という名の下で縛り付ける。普通の職業なら、こんな有期雇用は認められない。

 裏口入学は、世間でいう「コネ入社」と同じだ。医師になるための切符をくれた大学には一生頭が上がらない。医局員として一生働き続ける。大学の経営者にしてみれば、裏口入学を認めた代わりに、ずっと働いてくれる医局員を確保できる。お安い御用なのだろう。

 某私大の皮膚科医局に所属している友人によれば、医局スタッフの約8割を占めている女性医師が、産休や育休を理由に医局を辞めるケースが後を絶たず、特に入れ替わりが激しいという。しかも、女性医師が多いために時短制度を導入できず、フルで勤務せざるを得なくなり、途中でリタイアしてしまう女性が多いそうだ。だから、教授も女性の入局希望者を採用したがっておらず、医局スタッフでさえ男性の入局希望者を優先させたがっているらしい。

 この状況は、大学経営者や教授にとっては「女は使えない」ことに等しいが、われわれ女性からみれば「男社会は仕方ない」ことになる。教授や系列病院の部長を目指し、滅私奉公することを私は求めない。

 ある病院の産婦人科で研修をした大学6年の時のこと。定時(9時〜17時)で働いている女性医師が患者の急変に気がつかなかったようで、フルタイムで勤務している女性医師が彼女を責め立てていたことがあった。「急変時に対応できないなら、勤務しない方がマシだ。結局フルで働く私たちにしわ寄せがくるんだ」と。定時で帰ってしまう医師をフォローし合うという意識が全く感じられなかったことは、学生ながら残念に思った。

 私が医師を目指したのは、大学教授のような「肩書」が欲しいからではない。患者さんを診察して治療し、患者さんに寄り添っていく中で、医療と医学の両方を学びたいからだ。私は、大学医局には属さず、新専門医制度にも登録しなかった。福島県と東京都で臨床医として働きながら、臨床研究にも取り組んでいる。
画像:Getty Images
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 女子受験生を一律減点し、恣意(しい)的に合格者数を抑制していたことは、女子差別であるとしか言いようがない。だが、根底に隠れている問題は、医学教育という名の下、大学において入試や専門医の名を語った医師の囲い込みや就職活動が行われているという現状があることである。そこは典型的な「男社会」だ。私はそのような人生を送りたくない。おそらく同様に感じている女性医師も多いだろう。

 こうした現状を打破するには、医学部と大学病院を分ける、といった対応が必要だろう。今こそ「女性差別」という問題だけで終わらせることなく、その裏に隠された医学教育という名の下の体制や慣習にメスを入れる時なのではないだろうか。