北条かや(著述家)

 東京医科大(東京都新宿区)が一般入試で女子や3浪以上の男子受験生の得点を調整し、合格者数を恣意的に抑制していた問題で、大きな波紋が広がっている。女性医師の出産による離職問題や、「ハードワークになりがちな外科や救急に女性医師が少ない」といった医師の偏重、私立大学の存続がかかった寄付金集めの事情など、今回の問題には多くの切り口がある。本稿では、問題の本質を立ち止まって考えたい。

 多くの日本の組織がそうであるのと同様に、東京医大はこれまで男女差別などないかのようなポーズを取ってきた。事実、平成27年には「東京医科大学男女共同参画宣言」を高らかにうたい、平成25年度には文部科学省の女性研究者を支援する事業に採択されている。

 これは女性研究者と、彼女たちを夫としてサポートする男性研究者を対象に総額約8千万円もの補助を受けるものだ。当時公開された東京医大のホームページには次のように記されている。

  「本学医学科の女子学生は、過去10年で187名から237名と50名増加し、全体で占める割合も26・9%から32・4%と5・5%も増加しております。その割合と同様に女性研究者の人数も年々増加し、今年4月に医学部看護学科の開設に伴いさらに女性研究者が増えることから本学の女性研究者支援体制の整備は急務であると言えます」(東京医大HPより一部抜粋)

 一読して分かるように、東京医大ではむしろ女子の増加を歓迎するかのような広報活動を行っていた。しかし、その裏で「女子学生が3割を超えると困る」として、女子受験者が合格しづらくなるよう「調整」していたのだから「二枚舌」というほかない。ただ、本音と建前という二枚舌の使い分は、別に東京医大だけでなく、多くの日本の組織で行われていることでもある。

 一方で「女性医師の増加を歓迎する」と言い、他方で「女性医師は現場への貢献度が低いので入学者数を制限する」と言う。その理由として、「女性は結婚や出産で離職する割合が高いので、医師不足を防ぐ」ことを挙げる。
 2018年8月、記者会見の冒頭、謝罪する東京医科大の行岡哲男常務理事(手前中央)と宮沢啓介学長職務代理(同左)
 2018年8月、記者会見の冒頭、謝罪する東京医科大の行岡哲男常務理事(手前中央)と宮沢啓介学長職務代理(同左)
 不正に関わった関係者らはおそらく、男女の人数調整は正当化されると本気で信じていたのだろう。二枚に分かれた舌を無理やり一枚に見せようとして、秘密裏に女性の評価を下げる。その成果は「医師不足の解消」という、彼らにとっての善なのだから、この差別を批判するのはある意味で難しい。

 なぜなら、差別批判は往々にして、「正当な処遇だから問題ない」というロジックで批判されるからだ。東京医大の問題に関して言えば、女医でタレントの西川史子氏が「女性医師の割合が増えると眼科医と皮膚科医だらけになってしまう。(女性医師の少ない)外科になってくれる男手が必要。男性ができることと、女性ができることは違う」と発言しているが、これも入試における差別を「正当な処遇」とする分かりやすい言説だろう。