現代では、複数の情報システムが互いに連携して動作しているので、一つのシステムが時間認識で不具合を起こすと、連鎖的にその影響が広がる可能性がある。既存システムの維持・管理の業務や新規のシステム構築業務に加えて、全システムについて夏時間対応の検証や改修を実施するのは、コスト的にも人員的にもかなりの負担となるだろう。

 今、筆者は情報システムと述べたが、業務用の情報システムだけが改修の対象となるわけではない。家庭用の録画装置やエアコン、自動車に搭載されている各種機器類など、身の回りにある、ありとあらゆる機器類について対応が必要となる可能性がある。

 家庭用機器の場合、時間がずれても致命的な問題にはならないので、一部の製品については利用者に諦めてもらうという選択肢もあるかもしれない。だが、そうはいかない製品も数多くあることを考えると、このリストアップだけでも大変な作業量だ。

 しかも2019年には、天皇陛下の譲位に伴う皇太子さまの即位による改元が予定されており、システム会社はこの対応に追われている。ただでさえ人手不足で苦慮しているところにサマータイムも入るということになると、システム業界は相当な混乱となるだろう。

 それだけではない。万が一、情報システムに不具合が発生した場合、社会や経済に対する影響があまりにも大きいという現実を見過ごすわけにはいかない。

 東京は各種のインフラが貧弱であり、五輪開催時に大量に押し寄せる観光客をスムーズにさばけるのか心配する声も多い。こうした中で、システムの不具合による鉄道や航空機のダイヤの乱れなどが発生すれば、それこそ目も当てられない状況となる。

 大きなリスクを背負ったとしても、得られるメリットが極めて大きければ、取り組む価値があるという考え方もある。だが、サマータイムによって得られる効果が限定的であることは、多くの人が実感しているはずだ。

 酷暑となる日は、夜半過ぎになっても気温は下がらず、かなりの高温状態で日の出を迎えることが多い。1時間から2時間、時計の針を進めたとしても、競技中の平均気温を大きく下げることは難しいだろう。
皇室会議により、譲位と即位、改元の日程が決まったこの日、皇居周辺に集まった大勢の観光客=2017年12月1日
皇室会議により、譲位と即位、改元の日程が決まったこの日、皇居周辺に集まった大勢の観光客=2017年12月1日
 一部では今回の議論をきっかけに、本格的にサマータイムのメリットについて検討し、恒久的な制度として導入を検討すべきという意見も出ているようだ。だが、サマータイムについては欧米でも賛否両論があり、総合的なメリットとデメリットを検討するには、相応の時間が必要となる。

 今回のサマータイム導入が東京五輪の暑さ対策として浮上してきたのであれば、あくまで論点は五輪に絞った方が、議論は混乱しない。五輪の暑さ対策に的を絞り、抱えるリスクの大きさと得られるメリットを比較した場合、得られる結論は、導入見送りということにならざるを得ないだろう。