「キャスターの時代は終わった」木村太郎が読む米ニュース戦争

『木村太郎』 2018/09/03

読了まで6分

木村太郎(フリージャーナリスト) 

「トランプ大統領のいわゆるロシア疑惑については、これまで何の証拠も見つかっていません。証拠ゼロです。それなのに(疑惑を捜査している)モラー特別検察官の応援団の民主党関係者は、絶望的になって大統領を貶める材料を必死に探しています」(FOXニュース「ハニティー」ショーン・ハニティー氏)

「私の番組がロシア疑惑ばかり取り上げていることに批判があるのは確かですが、昨年の大統領選で当選すべくもない候補者が当選し、その人物がロシアと特別な関係があることが判明した以上、我々はこの問題を集中的にお伝えしなければならないのです」(MSNBC「レイチェル・マドー・ショー」レイチェル・マドー氏)

 今年第2四半期で、米国のケーブルテレビ・ニュース視聴者数が1位、2位だった番組(TVニューザー調べ)の司会者の発言である。

 トランプ大統領に対する立場は正反対だが、2人の発言は「中立」さや「公平」さとはほど遠い主義主張をむき出しにしたものだ。3位以下の番組の司会者も同様に自分の考えを隠そうともせず押し出している。

 肩書きを「司会者」としたが、彼ら彼女らはもはや日本でキャスターと言われる「アンカー」ではない。放送局も「ホスト」、「ホステス」と呼び、役割も全く変わっているからだ。

 かつての「アンカー」は、記者やカメラマンが取材しディレクターが編集したニュースをリレーの最終走者アンカーのように視聴者に提供する役割とされ、自分の考えをひけらかすのはタブーだった。

 代表的な存在がCBSニュースのウォルター・クロンカイト氏。ベトナム戦争の凄惨な映像にも眉ひとつ動かさず、ニュース番組の最後に「今日はこんなところでした」と締めくくるだけのスタイルが「アンカー」の手本のように言われた。

CBSニュースのキャスター、故ウォルター・クロンカイト氏
 「アンカー」によるニュースは今もCBS、NBC、ABCの三大ネットワークに引き継がれてはいるが、今やテレビニュースの主役はCNNやFOXニュース、MSNBCなどケーブルテレビの24時間ニュース専門局の番組に取って代わられた。ネットワークニュースの報道が政治を動かすようなインパクトはなくなり「アンカー」たちの存在感も薄れた。

 そうなった背景にはいくつかの要素があるが、まず、24時間ニュース専門局の台頭だろう。ドラマは「オンデマンドで見る」ことが主流になったテレビ界では、同時性を生かしたスポーツとニュースが「売り物」になってきた。

 特に、米同時多発テロ事件以降、続発するテロや、大統領選挙以来の政治的な混乱が続く中で、何かあれば24時間ニュースをつけっ放しにして情報を集めるのが米国人の生活習慣にもなっている。

 ニュース専門局の収益は10年間で280%増加し、昨年は3社合わせて50億ドル(約5500億円)に上った(ピュー・リサーチセンター調べ)。ニュース専門局間の競争も激化していったが、その争いの火に油を注いだのが、米国政府が放送局に課していた「公平の原則」を撤廃したことだ。

 「国民の財産の電波は有限だからその利用には公共性が求められる」というのがその根拠だったが、ケーブルテレビなどの普及で、電波は「有限」ではなくなったという理由で「公平原則」は1986年に撤廃された。

 放送で偏った番組を放送しても「公共の活発な意見交換を助する」と許されることになり、ニュース専門局はCNN、MSNBCが民主党系、FOXニュースが共和党系と旗色を鮮明にして視聴者の獲得を競っている。

 当然その主張は競争を反映して過激になっていくが、同じ民主党系のCNNとMSNBCの間でも、どちらがより民主党支持者を多く獲得できるかを競って番組の内容もエスカレートしていった。

 その競争の主役が「司会者」で、彼ら彼女らの発言が視聴者数を左右し、ひいては放送局の経営をも影響することになるので、保守革新いずれにせよ、その考えを強く主張できる人材が重用されることになる。

 冒頭で紹介した視聴者数ナンバーワン番組のハニティー氏も、超保守派の論客として知られ、歯に衣着せぬ発言で敵が多く、常にボディガードが氏の周辺を守っていると言われる。

 だが、そのハニティー氏も真っ青になるほど過激な「ホスト」が現れた。その名も「インフォウォー」つまり「情報戦争」という名前のウェブサイトを運営しているアレックス・ジョーンズ氏で、同名のニュース番組をユーチューブで配信し、240万人のチャンネル登録者を抱えるまでになっていた。
ユーチューブでニュース配信をしていたアレックス・ジョーンズ氏
 「いた」と過去形で書いたのは、ジョーンズ氏の発言は余りにも一方的で「ほとんどの銃乱射事件は国際派への関心を集めようとする陰謀だ」などと信ぴょう性に乏しいので、ユーチューブが「フェイク(偽)ニュース」の発信源として「インフォウォー」を排除してしまったからだ。

 しかし、インターネット上の動画配信が日常化していく時代には「悪貨が良貨を駆逐する」ように、新しいネット放送のホストたちがケーブルテレビの先人たちより、さらに過激な放送をするだろうことは容易に想像できる。

 翻って日本のテレビニュースだが、今のところはキャスターという肩書きの人たちが「中立」「公平」「公正」さを建前にニュースを司会しているように見える。しかし、ニュースの後に蛇足のようにつけ加える「後説(あとせつ)」で自らの思いを吐露するのが、もはやアンカーに求められる規範を逸脱しているのではないか。

 さらに、「政治的な公平性」などを求めた放送法4条の撤廃も論議され始めており、加えて放送法の規制を受けないネットテレビも当然増えることが予想されるので、米国のようにキャスターに代わって「司会者」が幅を利かせる時代が来ると考えた方がよいだろう。

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