池上彰(ジャーナリスト)

 「芸能人がニュースを伝えることをどう思いますか?」

 私が担当するネットの連載で、こういう質問を受け、「違和感を禁じ得ません」と答えたところ、その直後にニュース番組に出演している芸能人のスキャンダルが報じられたことで、思いがけず話題になってしまいました。

 このとき私が伝えたかったのは、イギリスのBBCやアメリカのCNNでニュースを伝えるのは現場での取材を積み重ねてきたジャーナリストだということです。

 これに対して日本のニュース番組では、過去にニュースの現場にいたこともなければ、それまでニュースに関心がなかったであろう芸能人が、ニュースについてコメントしたり解説したりすることがあります。当然のことながら、コメントが明後日の方角を向いていたり、誰に対して話しているのか不明だったりという内容のものが出てきてしまいます。これが違和感なのです。

 とはいえ、これは、その芸能人の責任ではありません。その人を起用した番組の責任者の問題なのです。

 かつてアメリカのABCテレビにピーター・ジェニングスというニュースキャスターがいました。彼はハンサム(古い表現ですね。いまならイケメンというべきでしょうか)だったことから、若くしてニュースキャスターに起用されたのですが、経験不足が出て降板させられます。このとき上司は彼に向かって「もっと顔に皺(しわ)を刻んで来い」と言ったといいます。つまり、もっと取材経験を積んで来い、という意味です。

 そのアドバイスを受けて現場での取材経験を積み、「顔に皺を刻んだ」彼は再びキャスターに復帰。今度は名キャスターとして知られるようになり、肺がんで亡くなるまで第一線で活躍しました。

 とりわけ2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの際、他局のニュースが極めて愛国主義的な報道色を強める中で、冷静な報道を貫きました。「愛国的でない」「反米的だ」などという批判にも動じることはなく、米国内で興奮が冷めた後、彼の報道姿勢は高く評価されました。

 もし日本で同じようなことが起きた際、ニュースを伝えていたのが芸能人だったとしたら、どんな反応をすることになるのか、という一抹の不安があるからです。
テレビ東京系「池上彰の現代史を歩く」の会見に出席した左から相内優香アナウンサー、ジャーナリストの池上彰氏、フリーアナウンサーでタレントの宮本隆治
テレビ東京系「池上彰の現代史を歩く」の会見に出席したジャーナリストの池上彰氏(中央)ら=2018年4月
 とはいえ、ニュース番組に登場するのが男女ともに「顔に皺を刻んだ」人たちばかりでは、見ている人が面白くないと思うかもしれません。視聴率で苦戦する可能性もあります。テレビ番組は視聴者に見てもらってナンボという世界ですから、視聴者に親しみやすい演出を考え、若い女性や人気タレントを出演させることになるのでしょう。

 若い人たちに人気のあるタレントが出演しているニュース番組のディレクターが、私に「彼が出ていることで若い人たちにもニュースを見てもらえるようになるんです」と説明してくれたことがあります。なるほど、そういう効果もあるのかと納得したものです。