しかし、徒歩での帰宅訓練などに実際に参加した人が何人いただろうか、自社ビルに通行人や観光客を受け入れるための準備を「本気」で開始していた企業がいくつあっただろうか。産官学民の垣根(縦割り)をぶち破って「本気」でこの問題に取り組もうとした行政職員がどれだけいただろうか。

 あるいは、老朽化したものを中心に建物の耐震化を進めることが地震対策の最善手であることも、むろんだれもが知っていた。しかし、行政予算の削減、会社の収支悪化、あるいは家計の逼迫を覚悟してでも、耐震化にお金をつぎ込もう、つまり「本気」で地震に備えようと英断した人がどのくらいいただろうか。私を含めて、一人一人の「本気」度が試されている。

 論述がいささか説教調になってきたので、最後に一つ、こんな方向性もあるという話をしてみたい。これは、本稿で指摘した項目の一つ、家具固定についての話である。私の研究室では、ここ数年、南海トラフ地震・津波による被害が懸念される高知県内の沿岸地域で、「押しかけ家具固定」と名付けた取り組みを実施している。

 これは、特に過疎高齢化が進む地域では、家具固定が進まないのは、「する気がない」からではなく「できない」からだと気づいて始めた取り組みである。一度でも実際に家具固定をしたことがある方ならお分かりの通り、あの作業は、(特に独居の、身体が頑健でない)高齢者には実施困難である。
地震の影響で物が散乱した住宅の室内=2018年6月18日午前、大阪府吹田市
地震の影響で物が散乱した住宅の室内
=2018年6月18日午前、大阪府吹田市
 粘着マットを家具の下に敷くにしてもだれかが家具を持ち上げておかないといけない。L字金具を家具の裏面に設置するにしても、不安定な脚立などの上で工具や器具を操らねばならない。

 そこで、私たちは、地域の小中学生に、高齢者宅で「家具固定をしてあげます。ご希望ありませんか」と呼びかけてもらった。そして、希望者宅には、地元の電器店、工務店の方など、こうした作業が得意な住民とアシスタントの小中学生から成るチームが押しかけていく。必要な器具は、多くの場合、自治体の補助金などで購入できるので、経費もほとんど無料で済む。

 要するに、家具固定に関する「本気」が問われているのは、家具固定が必要とされている側(だけ)ではなく、家具固定を推奨する側だったというわけである。「家具固定しましょう!」と教育・啓発するだけの姿勢には、まさに「本気」が欠落していたのである。ささやかな試みであるが、こうした小さな「本気」の積み重ねが、巨大な災害に対して人間が対峙するための最強の「武器」だと思う。