徳田竜之介(竜之介動物病院院長)

 皆さんは突然、経験したこともない大きな揺れを感じた時、どうしますか? 頭を隠す、台の下にもぐる、外に逃げる…。今この瞬間は何も起こっていない平時なので、時間をかけてゆっくり考える余裕がありますが、災害は突然起こるものであり、起こった場合にほとんどの人がパニックになります。それは人だけではなく、猫ちゃんたちも同じことです。猫ちゃんたちの場合は特に、私たち人間のような防災訓練や準備を行っているわけでもなく、テレビやラジオから情報を得ることもできませんので、そのパニックたるや大変なものです。私も2年前、熊本地震を経験してから初めてそのことを知りました。

 熊本地震発災時、「ドスン!」という大きな音と振動とともに経験したこともないほどの大きな揺れを経験しました。幸い、私が院長を務める竜之介動物病院は耐震性に優れた構造だったため、私の診察室は何もなかったかのようにいつも通りの診察ができましたが、薬品庫や処置室は悲惨な状態で足の踏み場もないほどでした。

 私は飼い主さんを落ち着かせようと、いつも通りの診察と会話を心がけましたが、その数分後から、外来に患者さんや避難者の方々が一気に押し寄せ、あっという間に待合室がいっぱいになりました。

 割れたガラスを踏んでけがをした猫ちゃん、家具やタンスの下敷きになってしまったワンちゃん、パニックで飛び出し、交通事故で血だらけで運ばれてきたゴールデンレトリバーなど、待合室は白い床が血液で真っ赤に染まっていました。私は戦争経験者ではありませんが、野戦病院はこんな感じだったのではないかと想像してしまうほどの光景が目の前に広がっていました。

 その中で、猫ちゃんの場合にいくつか特徴的な症状がありました。

 一つ目は、「後ろ足からの出血が止まらないので、何か踏んだんじゃないでしょうか?」というものです。診察をしてみると後ろ足の爪が全部剝(は)げて、そこから大量に出血しているというものでした。

 原因を推測するに、突然の揺れに驚いた猫ちゃんたちが、パニックのあまり走り出し、部屋中を床だけでなく、壁、天井まで駆け上がりながら、気づいたら爪が剥げて、出血している状態であると考えられました。

 ケガをしてからすぐ来院した猫ちゃんたちは比較的軽傷で済んだのですが、けがから数日経った場合には、後肢から感染を起こして、膿(うみ)がたまった状態でパンパンに腫れているという症状の子も多かったです。
徳田
動物看護師と被災地に赴き、野良猫などの治療・調査をする徳田竜之介氏(提供画像)
 次に多かったのは、パニックで部屋の外に逃げ出す、または、マンションから飛び降りるといったものです。

 私たちは通称「フライングキャット」と呼んでいますが、マンションなどの高層階から飛び降りた場合には、骨盤骨折や内臓破裂などの重傷で運ばれてきます。

 震災の場合には、大きな揺れで扉やサッシなどが外れ、容易に外に出られてしまうことが大きな原因だと考えます。特に猫ちゃんの場合は、部屋の中で放し飼いにされてることが多く、首輪やマイクロチップ、迷子札などをつけていないコがほとんどだったので、逃げ出してしまった後もなかなか見つからないという相談が後を絶ちませんでした。