佐藤栄記(動物ジャーナリスト)

 この日本で、地震から免れられる土地は、残念ながらどこにもありません。この国にいる以上、大きな地震に遭遇する可能性が常にあるのです。

 そのため、学者たちは地震による被害を軽減させるべく、「地震予知」の研究をしてきました。一方で、庶民の間でも、古くから民間療法ならぬ「民間地震予知」が都市伝説的に伝えられてきました。その多くが、身近にいる動物たちの行動から推測した地震予知です。

 もう四半世紀以上も前の真冬の話になりますが、岐阜県のある村に、アトリという小鳥の大群が突如として出現したことがあります。当時、TBSの『どうぶつ奇想天外!』という動物情報番組のディレクターをしていた私は、すぐさまその村に飛びました。

 スズメよりほんの一回りほど大きなアトリですが、数万羽も集まって上空を旋回すると、空が群で覆われ、日差しが遮られて黒くなりました。それは過去に見たこともない壮大で不気味な光景でした。

 これを見て、地元の人は皆、口々に不安を語っていました。「アトリがたくさん来た冬は、翌年に大地震が起きる」と。この村には、大昔からそのような言い伝えがあるのだそうです。

1994年1月の夕暮れ、岐阜県内に
数十万羽の「アトリ」が飛来し、
空一面が真っ黒に覆われた(斉藤良雄撮影)
 アトリは、シベリア方面から冬になると日本に渡って来る冬鳥ですが、年によって渡ってくる数に大きな幅があり、また飛来地も一定ではありません。そのため、この村にほとんど来ない年もあれば、この年のように恐ろしい数が飛来することもあるのです。

 鳥が大好きな私にとって、鳥の大群は吉兆にしか見えませんが、空を埋め尽くすほどの大群は、人によっては悪夢の前触れを予感させるのかもしれません。そして尋常ではないその光景は人々の記憶に残り、その後に地震でも起ころうものなら、「やはりあれが前兆だったのでは?」と考える人が出るのも無理はない話でしょう。

 結局、私がアトリを取材した翌年に、その村に甚大な被害が出るような地震は起きませんでした。でも、世間には動物が大地震の前に普段とは違う行動をしていたという話は、非常に多く存在しているのです。