中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト)

 筆者は何度かアメリカで暮らしたことがあるが、その都度思ったことは、日本の物価水準、特に食糧や電気、ガスなどの公共料金が割高であるということだ。世界の主要都市の住居費、交通費、食費など200品目を対象に調査した『2018年世界生計費調査』(マーサー調査)では、東京の生計費の高さは香港に続く2位にランクされている。

 この比較は、筆者の実感にも合っており、日本は豊かなのかと素朴な疑問が湧いてくる。日本の国内総生産(GDP)は世界3位だが、各国の物価水準を考慮した購買力平価でみた日本の一人当たりのGDPは世界で28位に過ぎない(2017年IMF統計)。その国の本当の豊かさは名目GDPの額ではなく、購買力平価でみた一人当たりのGDPで測るべきだろう。

 マーサーの生計費調査対象の200品目に携帯電話料金が含まれているかどうか確認できないが、日本の携帯電話料金が国際的に高すぎるという指摘がなされた。8月21日に菅義偉(よしひで)官房長官が札幌で行った講演で、携帯電話の料金に関して「あまりにも不透明で、他国と比較して高すぎるのではないかという懸念がある。4割程度引き下げる余地はある」と語った。

 さらに同月27日の記者会見でも「競争をしっかり行えば、下げられる余地がある」と説明。4割下げられるという根拠に関して、日本の携帯電話料金は、先進国が加盟する経済開発協力機構(OECD)の平均よりも約2倍高いこと、携帯電話市場に新たに参加する楽天が既存の企業の料金よりも半額程度低い料金設定を行うことを挙げている。

 そして菅官房長官は「競争を促進し、利用者にとって分かりやすく、納得できる料金、サービスの実現に取り組んでいく必要がある」と語っている。菅官房長官の指摘に異論はない。

 ただ、携帯電話産業の所管は総務省であり、官邸ではない。なぜ菅官房長官があえて携帯電話の料金に言及したのか、その理由は定かではない。だが、安倍首相は2015年9月に携帯料金の引き下げを指示している。にもかかわらず、現実には携帯電話料金の引き下げは進んでいない。

 菅発言は、官邸の総務省の取り組みに対する不満を反映したのかもしれない。アベノミクスが具体的成果を生んでいないことに対するいら立ちを表現したものかもしれない。事実、野田聖子総務相は菅発言に不快感を示していた。

 とはいえ、総務省は迅速な対応を迫られている。菅官房長官の講演を受け、8月23日に情報通信審議会に携帯電話市場の競争ルールを検証するよう諮問した。携帯電話料金の議論の流れをみれば、何を今さらという感もぬぐえない。

 では、日本の携帯電話料金は本当に国際的に高いのか。あるいは4割も引き下げる余地があるのだろうか。政治的な狙いは別に、国際的な料金の比較検証をしてみる必要があるだろう。
(GettyImages)
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 一定の基準がない携帯電話料金を正確に国際比較するのは容易ではないが、総務省が昨年7月に発表した「電気通信サービスに係る内外価格差調査」を基に見てみよう。

 同調査は東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ(ドイツ)、ソウルの6都市を調査対象にしている。携帯電話だけでなく、固定電話なども調査対象になっている。また、各都市の料金はOECDが公表する各国の「購買力平価」を用いて円換算されている。

 調査の結果、スマートフォンでは、データ通信容量によって料金が大きく違っていることが明らかになっている。月間のデータ容量が2GBの場合、一番高い料金はニューヨークで、6187円。東京はソウルの3819円に続き、3番目に高く2680円であった。

 ちなみに最低の料金はパリの1915円である。東京とパリを比較すれば、東京が36%高い。5GBの場合も、同様にニューヨークが最も高く、日本はソウル、デュッセルドルフに次ぐ4位であった。