奈良林直(東京工業大特任教授)

 9月6日午前3時8分、北海道南部の胆振(いぶり)を震源とする最大震度7の地震が発生した。胆振管内の厚真町では、丘陵地帯で数百メートルにおよぶ大規模な土砂崩れが発生し、流れ落ちた土砂が麓(ふもと)の民家を押しつぶした。震源に近い、苫東(とまとう)厚真火力発電所の1、2号機のボイラーが損傷し、4号機のタービンで火災が発生した。

 この損傷により、道内の電力の50%を供給していた総出力165万キロワットの火力発電所が運転停止した。このため、需給バランスが崩れ、過負荷による損傷を防ぐためにドミノ倒しのように全道の火力発電所、水力発電所が送電系統から切り離され、本州からの海底ケーブル(北本連系線)での受電も停止する事態となった。

 これによって、北海道全域で大停電が発生し、行政、病院、乳業、鉄道、航空、物流、百貨店、スーパー、コンビニなどの機能が停止した。行政や病院などは非常電源を所有しているところが多いが、燃料に限りがあり、機能の縮小を余儀なくされた。また、人口200万人の大都市である札幌市でも清田区を中心に深刻な液状化現象を発生し、家が傾き、道路が陥没した。そして9月9日時点で、全道の死者は36人に達した。

 結論を先に言えば、北海道の全道大停電は、泊原発1、2、3号機(総出力207万キロワット)が動いていれば防止できたであろう。言い換えれば、火力発電所の今回の全道大停電の責任は、原発を止めて、半年で終わるはずの審査が5年以上もかかり、一向に再稼働させない原子力規制委員会にある。
北海道電力泊原子力発電所1号機、2号機、3号機(左から)。手前は海上保安庁のボート。対岸の北海道岩内町から撮影=平成24年5月(大西史朗撮影)
北海道電力泊原子力発電所1号機、2号機、3号機(左から)。手前は海上保安庁のボート。対岸の北海道岩内町から撮影=平成24年5月(大西史朗撮影)
 全道大停電の影響は深刻だ。例えば、病院の自家発の燃料が尽きていくと酸素呼吸器や生命維持装置、透析装置などが止まっていき、手術もできなくなる。実際、0歳女児の酸素呼吸器が停止して重体に陥った。外来の診察治療も停止した。

 報道されていないが、地震による負傷者の救急医療にも影響があったはずだ。ポンプが動かないので、水道も断水して水も飲めない。北海道東部の標津町に住む40代男性会社員と、上川の上富良野町に住む70代の自営業の男性2人が、6日夜、停電のため、ガソリン式の発電機を使い、一酸化炭素中毒で死亡した。こうした人の命にかかわる激甚災害を作ったのは、原発を何の法的根拠もなしに運転を停止させて再稼働させない規制によってもたらされた人災である。要は「原発を止めるリスク」は非常に高いのだ。

 そもそも、変動電源である太陽光、風力は火力や原子力、水力などの安定電源が動いていないと接続できない。北本連携線の本州からの直流送電も、道内火力が動いていないと交流に変換できない。送電網の「素人集団」である原子力規制委はこのようなこともご存じないらしい。真冬の北海道で同じ事態が起きたらそれこそ何万人にも凍死する事態になる。原子力規制委も政府も、原発を止めているリスクの高さを認識していない。

 この大停電のリスクを筆者は櫻井よしこ氏との共著『それでも原発が必要な理由』で警告しているが、本来ならこの全道大停電の人的・経済的大損失の責任を原子力規制委と政府が負わなければならない。

 厚生労働省によると、地震の影響で北海道内の376の病院で停電し、そのうち11の病院は災害拠点病院で自家発電機を使って対応した。水などが使えない病院も82施設あり、医療ガスが使えない病院が11施設に上った。

 また、日本透析医学会によると、停電の影響によって北海道内で透析ができなった医療施設が17施設に達した。透析が3日間できないと深刻な事態になる。また、病院などの冷蔵庫に保管されているワクチン、例えばインフルエンザ、ジフテリア、ポリオ、風しん、ボツリヌス、肝炎、日本脳炎、狂犬病などあらゆる種類の病気や検査のワクチンも2℃から8℃の間で保管されていなければならず、10℃を超えると廃棄しなければならない。