櫻田淳(東洋学園大学教授)

 9月20日に投開票が行われる自民党総裁選は、北海道を襲った巨大地震の衝撃の最中に告示された。安倍晋三首相(自民党総裁)と石破茂元幹事長との一騎打ちの構図となった此度(こたび)の選挙の行方を展望することは、本稿の目的ではない。

 此度の選挙に際しては、すでに安倍首相の「優勢」が伝えられている。筆者が幾度も指摘してきたように、「外交・安全保障政策を切り回せるか」や「経済を回せるか」という二つの評価基準に照らし合わせれば、安倍首相の政権運営に特段の瑕疵(かし)はない。

 「地方や中小企業が成長の果実を生み出すことこそ肝要だ」と述べ、地方主導の経済成長を説く石破氏の主張は、彼の独自の政策カラーを世に誇示しているかもしれない。だが、それが「アベノミクス」と総称される安倍首相の経済政策全般を超克できる程の「衝撃」を世に与えられるかは、甚だ心もとない。石破氏の掲げる政策が「安倍の足らざるをただす」域に止まる限り、それが安倍首相の「優位」を覆すのは、難しいであろう。

 むしろ、此度の選挙に際して留意されるべきは、細田、岸田、麻生、二階、石原、竹下といった党内各派がそろって安倍支持を打ち出した自民党の「空気」である。此度の選挙が実質上の「出来レース」として国民各層から受け止められることの危うさについては、自民党内ではどのように認識されているのか。

 例えば、岸田文雄政調会長が総裁選不出馬を表明した折、彼の政権獲得戦略は、3年後に安倍首相からの「禅譲」を狙うことだと語られた。それは、自民党の内でも外でも「安倍一強」と評される首相の権勢を前にする限り、実に無難な判断である。
自民党総裁選で安倍晋三首相への支持を語る岸田文雄政調会長=2018年9月10日午後、広島市(長嶋雅子撮影)
自民党総裁選で安倍晋三首相への支持を語る岸田文雄政調会長=2018年9月10日午後、広島市(長嶋雅子撮影)
 しかし、「権力は闘って掌握するものである」という理にのっとるならば、その「無難な判断」に走った岸田氏の姿勢は、「ポスト安倍」をうかがう政治家のものとして果たしてふさわしかったのか。少なくとも確実に指摘できることは、岸田氏は総裁選に出馬しなかったことによって、自らの政見を披露し、自ら「ポスト安倍」を担うにふさわしいということを世に認知させる機会を捨てたということである。

 岸田氏に限らず、石原伸晃元幹事長や野田聖子総務相のように「ポスト安倍」として名が挙がる政治家も、同じ対応に走っている。自民党は、此度の選挙を「争論の舞台」としてだけではなく「『次代』のお披露目の舞台」としても実の伴ったものにしなかったわけだが、そのことの代償は、先々に大きなものになるのではなかろうか。