富澤一誠(音楽評論家)

 安室奈美恵は、6月3日に東京ドームでラスト・ツアーの最終公演を行った。5大ドーム17公演とアジア3都市6公演を巡り、計80万人をドーム動員した「引退イベント」の千秋楽。この歴史的な記念日に立ち会い「歴史の証人」にならなければならない、と思ったのは私だけではないだろう。

 正直に言って、音楽評論家として47年間のキャリアを持つ私は数々の現場を見てきたが、今回の安室の「引退ラスト・ツアー」は全てにおいて音楽史に残る特別なメモリアルと言っても過言ではない。

 安室の「引退宣言」は衝撃的だった。2017年9月20日、公式サイトで正式に発表されたときのショックは今でも鮮明に覚えているほどだ。

 希有(けう)のスーパーアイドル、スーパースター、スーパーエンターテイナーの彼女だけに超ド級の衝撃度だった。私のところにもテレビやラジオ、新聞、雑誌からたくさんのコメントの依頼があった。当時、私はこんな風に答えている。

「ファッションリーダーでもあり、全盛期で結婚・出産するなど自分の生き方を通してライフスタイルまで提供したことで、それまでのアイドルというジャンルをアーティストまで引き上げた。ダンスも凄く、アスリートに近いものがあった。ナンバーワンでオンリーワンの存在。突然の引退発表にびっくりしたが山口百恵さんやBOOWYのように全盛期にやめることで、素晴らしい記憶が瞬間冷凍され、伝説になると思う」

 アーティストには2通りのタイプがある、と私は考えている。一つは、時代に関係なく、あくまでも自分を押し通していくタイプ。もう一つは、時代との距離をいつも一定に保っているタイプだ。

 前者は吉田拓郎や矢沢永吉のような「俺が…」的なアーティスト。一方、後者はどんなに時代が変わろうとも、その時代の波をうまくとらえて、時代のサーファーのように乗りこなしてしまう松任谷由実や桑田佳祐のようなアーティストだ。具体的に言うと、自分は人とはちょっと違うかっこいい生き方をしていると思っている人たちの一歩先を行くこと。音楽だけではなく、生き方をひっくるめて、同世代のライフスタイルをくすぐってちょっと変えてしまうような…。

 ユーミンは他人より一歩先を常に歩いてきた。そこに女性を引きつける魅力があるのだ。だからこそ、女性の憧れの的になったのだろう。「私もユーミンみたいになりたい」。そう思ってユーミンの後を追う。
初の台湾ソロ公演で熱唱する歌手の安室奈美恵=2004年、台北市・新荘体育館
初の台湾ソロ公演で熱唱する歌手の安室奈美恵=2004年、台北市・新荘体育館
 それと同じものが安室にもある。そもそも人気絶頂期の結婚などはなかなかできるものではない。ライブでMCをしないこともそうだ。

 だが、安室は全て自分の意志で押し通してきた。自分の意志を持つ女性の美しさを実践したのだ。だからこそ、彼女に憧れて彼女のように生きたいと思う人たちがたくさん生まれて「アムラー現象」が起きたのだ。