西条昇(アイドル・お笑い評論家、江戸川大教授)


 突然の引退発表から1年。デビュー26周年を迎える9月16日、安室奈美恵は芸能界を引退した。彼女の引退発表を知った時、僕はまだまだ余力を残しながら引退を決断するトップアスリートを連想したものだ。

  安室のコンサートはほとんどMCを入れず、着替えの間に映像作品を流す以外は、ずっと歌い続け、踊り続けることで知られている。9月20日で41歳になる安室だが、これまで、激しいパフォーマンスを続ける体力と、デビュー以来全く変わらない体型は日頃の努力によって維持することができていた。

 しかし、当然ながら、それはいくつになってもできるというものでもない。今後を考えれば、年齢に合わせて無理のないステージを見せていくことは可能でも、彼女自身は現在のクオリティーを落としてまで続けることをしたくなかったのだろう。そうした思いが今回の決断につながったように思う。

  小学5年でジャネット・ジャクソンにあこがれ、本格的に歌とダンスのレッスンを開始。1992年9月にアイドルグループ「SUPER MONKEY'S(スーパーモンキーズ)」のセンターボーカルとしてメジャーデビューを果たしたものの、当時は男性アイドルも女性アイドルも「冬の時代」を迎えており、デビュー曲はオリコンチャート29位に終わっている。

  94年4月からフジテレビ系の子供番組『ポンキッキーズ』に16歳でレギュラー出演するようになった時も、そのポジションはアイドル的なものだった。安室はピンク色のうさぎの着ぐるみを身につけて、グレーのうさぎに扮した鈴木蘭々と番組内ユニット「シスターラビッツ」を結成。「うさぎとかめ」「金太郎」「桃太郎」「浦島太郎」「一寸法師」などの童謡をメドレーにまとめた「一寸桃金太郎」と題する曲を2人で様々なコスプレをしながら歌って踊る映像が、月~金の帯で流されていた。

  たまたまチャンネルを合わせて、その映像を見た僕は、彼女の持つ才能と魅力に釘付け状態となった。どこかバタ臭さのある、飛び抜けて可愛いルックスに加え、何より、抜群のリズム感と表現力に裏打ちされたダンスが素晴らしかったのだ。
ライブツアーで熱唱する安室奈美恵=2006年9月
ライブツアーで熱唱する安室奈美恵=2006年9月
 振付はお遊戯とヒップホップの要素をミックスしたようなものだったが、手足の角度、動きのキレ、メリハリのつけ方…、ダンスに関して言えば鈴木蘭々と「モノが違う」のは一目瞭然であった。彼女が97年に同番組を降板してから、この曲を引き継いだ二代目、三代目、四代目のシスターラビッツにも、安室のレベルに迫ったメンバーは1人もいなかった。

  95年のソロデビューとレコード会社の移籍を経て、小室哲哉プロデュースの曲をリリースするようになると、その才能は大きく開花してミリオンセラーを連発する。同年代の女性たちが彼女のファッションや髪型やメイクを真似る「アムラー現象」が巻き起こり、男性ファン中心のアイドルから、女性ファン中心のアーティストへと変貌を遂げるに至った。