一方で、ほぼ同時期に大ブレイクしたSMAPはアイドルの枠に留まりつつも、老若男女から愛される国民的アイドルグループとなった。やや遅れて登場した宇多田ヒカルや浜崎あゆみがアーティストとして成功したのも、先に道を切り開いた安室の存在があったからこそと言えるだろう。
 
  その後は、TRFのダンサー、SAMとの結婚(97年)、出産(98年)、母親が殺害された事件(99年)、小室プロデュースの終結(2001年)、離婚(02年)など、様々な出来事が続いた。

 だが、彼女は多くを語らぬまま、ブレることなく自分の仕事で結果を出し続けることで、歌やパフォーマンスだけでなく、その生き方や芯の強さに共感する女性ファンの支持が増えた。こうした安室とファンの関係性は、美空ひばりとファンとの関係に酷似しているように見える。

  そして、今回の1年かけての引退カウントダウンは、ラストツアー、CD、DVD、グッズ、企業とのコラボ商品など、莫大な経済効果を生んでみせた。キャンディーズの解散(78年)と山口百恵の引退(80年)までのカウントダウンも社会的に大きな盛り上がりを見せたが、時代の違いを考慮に入れたとしても、ビジネスのスケールでは今回のケースと比べられないほどの差があったのではないか。

  現在も続く大人数の女性アイドルグループ黄金期は、90年代後半の「モーニング娘。」のブームから始まった。その前の80年代半ばには「おニャン子クラブ」のブームがあった。ここ10年ほどは秋元康プロデュースによるAKBグループが圧倒的な人気を誇り、同じ秋元が手掛ける「坂道」シリーズも台頭した。

  CD不況と言われる時代にあって、驚異的な売り上げを記録してきた彼女たちの強みの一つが大人数のメンバーという「量」であることは確かだろう。80年代まではソロのアイドルが主流だったが、メンバーそれぞれのファンの集合体をターゲットとしたビジネスシステムが定着してからは、成功するソロアイドルがとんと出てこなくなった。
結婚会見で仲良く腕を組む安室奈美恵(右)とTRFのSAM=東京・青山
結婚会見で仲良く腕を組む安室奈美恵(右)とTRFのSAM=東京・青山
  そうした状況下において、安室はパフォーマンスの「質」にこだわり続けることで、ソロにも関わらず、数多くの記録を打ち立ててきた。

  山口百恵の引退の前後にはやたらに「ポスト百恵は誰か」と騒がれたのに対し、今回、「ポスト安室は誰か」という声はほとんど聞こえてこない。安室のような存在は周りが作ろうとして生まれてくるものでないことが皆、分かっているようだ。 日本社会の「安室ロス」が当面の間、続いていくのは間違いない。