20代になると音楽活動の勢いは急激に停滞しました。安室さんは20歳になるとすぐに、TRFのダンサー、SAM(丸山正温)さんとの結婚を発表したのです。妊娠3カ月でした。その直後にNHK紅白歌合戦の紅組トリで、『CAN YOU CELEBRATE?』を歌いました。その歌詞の内容からすると、まるで「自分たちの結婚を祝福してくれますか?」とファンに呼びかけているかのように感じられ、とても印象的でした。

 それから1年間の産休、育休に入ったので、レコーディングやライブなどの音楽活動は停止し、彼女の人生は次の段階に入ります。そのまま引退してしまうのではないかという心配をするファンもいたほどです。育児休暇が明けたのは、次の紅白歌合戦で、1年前と同じ『CAN YOU CELEBRATE?』を歌った時でした。今度は無事に男の子を出産したことに対して、「祝福してくれますか?」と呼びかけているように聞こえました。

 普通はアーティストが1年間ものブランクを作ったら、ファンが離れていってしまうものですが、安室さんの場合は全くそのようなことはありませんでした。ファンの人たちは安室さんの結婚を祝福し、じっと育児休暇を待ち、安室さんの音楽活動への復帰を待ち望んでいました。育休明けに復帰後の初登場で『CAN YOU CELEBRATE?』を歌唱中、瞬間最高視聴率が 64・9% を記録した、という数字がファンの気持ちを物語っています。

 年が明けて3月、沖縄の実家で実の母親が殺害されるというショッキングな事件が起きます。安室さんはそれを受けて、さぞかし精神的に辛かったでしょうが、プロ根性に徹してステージに立ち続けます。20代は文字通り波乱万丈のスタートとなりましたが、安室さんは苦難を乗り越えるごとに強くたくましくなりました。

 20代からは小室哲哉氏によるプロデュースを離れ、セルフプロデュースで作品を生み出していきます。また夫とは離婚し、シングルマザーとして音楽活動を続けていきます。その結果、安室さんは20代でもミリオンヒットを達成しました。

 このころから安室さんは世界に目を向け始め、またアジアツアーなどライブを中心に展開していくようになります。タイ・バンコク、台湾、韓国・ソウルなどで人気に火がつき、30代では冒頭に述べたようにアジアの5つの国と地域で、アルバム2枚連続ヒットチャート1位という記録を打ち立てました。

 私は20代以降の安室さんの活躍を支えてきたものは、少なくとも3つあると思います。一つは持って生まれたアーティスト、パフォーマーとしての天賦の才能です。二つ目は沖縄の女性が持つ独特のたくましさです。三つ目は安室さんが一貫して磨き上げてきた「アムラー」というスタイルです。それはファッションだけではなく、新しい女性のライフスタイル、生き様をも左右する意味を持っています。
ライブ前に姿を見せた歌手の安室奈美恵 =2008年5月、さいたまスーパーアリーナ
ライブ前に姿を見せた歌手の安室奈美恵 =2008年5月、さいたまスーパーアリーナ
 安室さんのパフォーマンスは、若さに裏付けられた、アスリートの技であるとも言えるでしょう。またミニスカートにブーツ、肌を多めに露出した「アムラー」のスタイルは、もしかしたらすでに完成された美学の一つとして人々に共有されていて、これ以上安室さん本人がステージで見せる必要はないのかもしれない、と思います。その意味では40歳を区切りとして、安室さんがパフォーマーを引退したのは、自然な流れだったと私は感じています。

 大学生である息子の温大(はると)さんが成人したのも、良いタイミングだった思います。成人したら息子さんまでマスコミに追い回される可能性があります。それを避けるために芸能人を辞めて母親として、プライベートな生活に軸足を移したいのだったら、それも理解できます。

 いずれにしても安室さんの天賦の才能と感性、そして沖縄の女性らしいたくましさと、世界への発信力は今後も残るでしょう。これからはそれを生かして、アジアを代表する一人の女性として、家族と地元沖縄を大切にした、自由な活動を続けていかれることを願っています。