2018年09月19日 13:57 公開

ローラ・ビッカー、BBCニュース・ソウル特派員

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、ちょうど中間地点にいる。

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の仲介役として、北朝鮮の非武装化に向けた外交努力を主導している。

18日に北朝鮮を訪れた文大統領は、4月以来となる3度目の南北首脳会談に臨んでいるが、今回の会談が最大の難関となるかもしれない。非核化への確かな一歩を踏み出すよう北朝鮮を説得し、確かな成果を出す必要がある。

そうでなければ、今年になって繰り返された南北首脳会談や、歴史的とうたわれた米朝首脳会談はいずれも、華やかな写真撮影の機会に過ぎなかったと位置づけられる恐れがあり、ドナルド・トランプ米大統領の忍耐力が切れるかもしれない。

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韓国国内で支持率が低迷する中、文大統領には勝利が必要だ。それには克服しなくてはならない、いくつかの障害がある。

北朝鮮にもっと説得力をもたせる

トランプ大統領は6月、金委員長との会談後、北朝鮮からの核の脅威は消えたと宣言した。

しかし、「伝家の宝刀」を手放す意思など北朝鮮にはないと、大勢が考えている。何十年もかけて開発した核兵器を、なぜわざわざ破棄するだろう。

金委員長が現時点で明言しているのは、「朝鮮半島の非核化」というあいまいな約束だけで、詳細に欠けている。文大統領はこれを変えなくてはならない。

グリフィス・アジア研究所のアンドレイ・アブラハミアン氏は、「北朝鮮が今週中に何らかの象徴的で現実的な大きな譲歩を見せることは、韓国国民の興味を引き付け続けるために大変重要だ」と説明する。

「文大統領に勝ち星を提供すれば、大統領の韓国内での立場は強くなる。そして、米国に前進し続けるよう圧力を掛けることができる」

「むしろ、南北両国が協力して米国に前進を促すような光景が実現するかもしれない」

今月初めに金正恩氏と話した複数の韓国人によると、金委員長は非核化を約束した自分の言葉が国際社会で真剣に受け止められていないことに苛立っていた。

確かに、文氏とトランプ氏は手玉に取られていて、北朝鮮は時間稼ぎをしているだけではないかと、大勢が懸念している。

もし金委員長が非核化について本気なら、今回の南北首脳会談はその意向を明文化する良い機会だ。

共和党重鎮のリンジー・グレアム上院議員(サウスカロライナ州選出)は16日にCBS番組「フェース・ザ・ネーション」に出演し、「もし北朝鮮がトランプ氏を手玉にとっているなら、我々は苦痛に満ちた世界を生きることになる。それ以外の選択肢が大統領にはもうない。平和へ向かう最後の、そして最高の機会が目の前にある」と話した。

トランプ大統領を巻き込み続ける

ホワイトハウスは、北朝鮮による最後のミサイル実験は10カ月前のことなので、それ自体がすでに事態進展の印だと主張する。しかし、北朝鮮が武器開発を続けている様子を示すとされる衛星写真も出てきている。

公の場では、トランプ大統領は金委員長を称賛し続けている。9月9日に北朝鮮が軍事パレードを行った際には、ミサイルを披露しなかったと歓迎の意を示した。

しかし内部では、トランプ政権関係者の多くが北朝鮮は核放棄するつもりはないだろうと見ているという。この溝は、北朝鮮でも見られる。

アブラハミアン氏は、金委員長はトランプ氏を「取り巻く門番」を通り抜けようとしているのだが、「そこにはリスクがある」と指摘する。

「ワシントンは現在、政治的に不安定な状況だ。今の勢力関係が今後数カ月先にも続いているのか、北朝鮮としては確信が持てない。だからこそ北朝鮮は、先延ばしするよりも今の時点で、打開策を見つける必要がある」

文大統領としては、米朝対話を継続させなくてはならない。そのためには本人が直接、当事者に働きかける必要がある。なので、平壌での南北首脳会談後、文大統領は国連総会へと飛び、トランプ氏と会談したい考えだ。

スタート地点を見極める

米朝両政府は、それぞれ別の立場から交渉を開始した。だから協議が行き詰っている。

北朝鮮は朝鮮戦争終結の宣言を求めており、それは韓国も同様だ。朝鮮戦争は1953年に休戦し、平和条約も結ばれていない。4月の南北首脳会談では、年内の戦争終結を目指す取り決めを交わした。

しかし米国はこの立場を取っていない。

米政府は北朝鮮に、平和協定に向けた交渉の前に非武装化してほしいと臨んでいる。また、戦争終結宣言を受けて、北朝鮮が2万8500人の駐韓米兵の撤退を要求するのではと懸念している。

新アメリカ安全保障センターのドゥヨン・キム氏は「完全に象徴的で、米軍や地域の利益に影響しない終結宣言を策定する方法はある」と話した。

「そのひとつは、1950年代にあった戦争状態はもはや存在しないが、休戦や休戦協定の重要な内容は維持されていると宣言することだ」とキム氏は説明する。

「この表現を使えば国連軍、ひいては米軍への法的影響はない。さらに、北朝鮮の脅威が消えたと法的に認めるわけでもなく、米国がこの地域の抑止力として存在する正当性もなくならない」

「ただし、休戦協定の主要部分を維持するような宣言に、北朝鮮が同意するかどうかが、大事な問題だ」

アブラハミアン氏は、首脳会談で文氏が是が非でも取りたい勝ち星は、必ずしも非核化に関するものである必要はないと指摘する。

たとえば朝鮮戦争で生き別れた離散家族のための施設を永久的に置くことや、開城工業地区周辺からの兵器撤退など「平和と信用の構築に関する」ものでもよいという。

個人的な重荷

文大統領の両親は、朝鮮戦争中に北朝鮮から逃れてきた。文氏は、戦時中に米軍が行った最大規模の市民救助作戦「興南撤収作戦」で難を逃れた市民10万人の1人だ。

文氏の母親は、現在の韓国・巨済市で文氏を出産した。母親の妹は撤収作戦で船に乗れなかった。文氏は2004年、第10回離散家族再会に参加して母親と共に北朝鮮へわたり、叔母と再会した。

韓国では、北朝鮮から逃げなくてはならなかった人を「シリャンミン(失郷民、故郷を失った人)」と呼ぶ。この個人的な経験が、文大統領の原動力となっていると言う人もいる。

ヤン・ハクドさん(85)は、文大統領の両親と共に米国船で北朝鮮を離れた。

「文在寅はきっと、両親の願いという重荷を抱えている。故郷に骨を埋めたいという願いを」と、ハクドさんは話した。

「昔は、共産主義者とは話してはいけない、話すことはできないと考えていた。でも北朝鮮は少しずつ変わってきているようで、私も、少なくとも話はするべきだと考えを変えている。北朝鮮が本当に交渉を通じて変わろうとしているのか、信じる気持ちは五分五分だ」

「本当に? でも、文氏が努力していることを誇りに思う」

(英語記事 The leader caught between Trump and Kim