2018年09月21日 16:22 公開

クリス・モリス、リアリティー・チェック担当編集員、BBCニュース

英シンクタンクの政府政策研究所(IfG)はこのほど、英国の欧州連合(EU)離脱まで6カ月となった現在、英政府がブレグジットを成功させるには時間が足りないとする報告書を発表した。

IFGは報告書で、政府は「合意なしのブレグジット」を見越した企業支援の準備着手が遅すぎたと指摘した。また、ほとんどの政策分野で、来年は経済的な打撃を免れないとしている。

さらに、たとえ離脱後の関係についてEUと合意に至っても、離脱後に設定されている21カ月という移行期間(2020年12月末に終了)では、将来的に通商協定に合意して批准までこぎつけるには時間が足りないという。

ニュースのファクトチェック(リアリティチェック)を担当するBBCニュースの取材チームはIFGに、同研究所が「現代の政府にとって前例のない大仕事」と説明するEU離脱の準備が、実際にどれだけ進んでいるかを聞いた。

<関連記事>

報告書では政府が直面する困難を交渉、立法、導入の3つの段階に分けて分析している。その結果、全ての段階に深刻な障害があることが分かったが、特に導入の段階が大きな懸念材料だと結論付けた。

少なくとも離脱をめぐる協定については交渉に進展が見られ、向こう数週間で「合意に至る可能性」がある。しかし、将来の通商協定の枠組みについては、協議はほとんど始まってもいない。

そしてもし離脱協定がすぐに決まらなければ、必要な法案を決定・批准し導入するまでの時間は短くなっていくだろう。

導入段階の「青信号」はわずか1分野

「合意なし」離脱となった場合の計画については、閣僚はその準備は「とても進んでいる」と強調する。IFGも、進展があることは認めている。

しかし、企業も大きな変化に準備しなくてはならず、IFGは、企業や消費者への政府ガイダンスは遅きに失したと批判する。報告書によると、オランダなど他の欧州政府は「合意なし」の場合のガイダンスを「かなり早く」公表していた。

報告書では、全体の進展評価に信号機を用いている。

もし英国が2019年3月に離脱後の関係について合意のないままEUを離脱する場合、政府の準備済みで青信号が点くのは「EUプログラムと基金」の1分野だけだという。

残りの9分野(国境・市民・移民、農業・漁業・食料、保健、運輸、サービス、エネルギーと環境、競争、税とデータ、司法)については赤信号で、政府は合意なしによる「多大な悪影響」を免れられないという。

政府が望む形で合意に達したとしても、21カ月間の移行期間中に通商協定に合意・批准するなど、ブレグジットを完了させるのは「まったくあり得ない」と報告書は指摘している。

IFGは例として、企業14万社以上が英国境での手続き変更に対応しなくてはならず、それまでに新しい関税体制の準備は整わないと説明した。

政府は2019年3月までのブレグジット対応に、職員を9000人増員し、20億ポンド(約3000億円)を計上している。来年度にはさらに予算を使う。その上でIFGは、「ブレグジットは、政府が実施しなくてはならない政策の規模として、過去数十年来で最大の難関だ」と警告する。

その規模を感覚的に把握するため、報告はブレグジットに伴う変化を、過去数年間の英政府プロジェクトと比較した。

自動年金受給プログラムと2012年のロンドン・オリンピックに向けた準備と実施には、それぞれ10年以上かかった。税制のデジタル化には5年がかかっている。

これらに比べると、EU離脱に与えられた21カ月という時間は極めて短い。

IFG報告書ではさらに、EUとカナダが自由貿易協定の交渉と完全施行に費やした時間も示している。今のところ、この協定には7年の月日がかかっている。

また、EUと韓国の自由貿易協定には9年が費やされた。

言い換えれば、もし2019年3月に「合意なし」離脱が回避されたとしても、英政府はなお、移行期間の終了する2020年12月に包括的な通商協定について「合意なし」となるかもしれないのだ。

立法段階は時間との戦い

英議会でも、期日が迫っている。

この秋(11月半ばと予想される)にEUと英国が合意に至った場合、ブレグジットまでに議会に残された会期はおよそ70日程度しかない。

IFGによると、過去に大きな条約の改正案が議会を通過するのには40日かかった。

会期70日の一部は来年度予算や金融関連法案の審議に費やされるだろう。

政府はさらに、EUとの合意を英国法に法制化する審議の前に、そもそも合意内容について下院で「有意」な得票数で支持を得なくてはならない。

IFGは、政府がこれまでに発表したブレグジット関連13法案のうち6法案が可決されるなど、いくつかの大きな成果は出ていると説明している。ただし、もはや残された時間はわずか6カ月だ。

政府はこれに加え、ブレグジット当日に一連の法律がきちんと機能するよう、約800件の行政委任法を通過させなくてはならない。

EU離脱省は、一連の手続きは計画通りに可能だと主張するが、「乗り切るためにやるべきことはたくさんある」と認めている。

IFGはさらに、「離脱合意が法律文書として定まるまで」は合意なしブレグジットの準備を続けなくてはいけないことも、政府にとって課題だと指摘する。

合意なしの場合ももちろん、議会はあらゆる政策領域に関する突発的な変化に対応するため、さまざまな法案を通過させなくてはならない。

IFGは「法律の準備が整わないまま、英国は法的な空白状態に陥るという現実的なリスクがある」

信号機のたとえで見てみよう。EUと合意にこぎつけた場合、離脱合意以外の法案については信号はほとんどが青だ。しかし離脱合意法案の成立はまだで、黄信号が点滅しているだろう。

合意なしだった場合、いくつかの法案は青信号となる。つまり、計画は進んでいるということだ。しかし多くの法案が不透明を示す黄信号で、EU市民の権利については赤信号のままだ。

交渉段階はこの秋次第

これから向こう数週間、英国はEUと離脱合意について最終交渉に入る。多くの案件の先行きがこの期間にかかっている。

さらに、両者は将来の関係性についての政治宣言をまとめ、それぞれの議会に承認を求めなくてはならない。

IFGは、金融合意、市民、移行期間の枠組みに青信号をつけた。政府高官は、離脱合意は8割方完了していると話している。

ドミニク・ラーブEU離脱相は今月、下院で「我々は毎週のように前へ進んでいる。合意は視野に入っている」と述べた。

しかし報告書では、欧州司法裁判所(ECJ)の役割と、英領ジブラルタルの処遇について黄信号となった。

さらに、最も困難とされている北アイルランドとアイルランドの国境問題のほか、英国議会での批准手続きが赤信号だった。

政府は、EU加盟時に取り結んだ通商など何百もの協定について、さまざまな国と再交渉しなくてはならない。

IFG報告書は、ブレグジットは「さまざまな政策分野で同時多発的に、今までにない水準の変化」を起こす可能性があると結論付けた。

合意の詳細が明らかになった時点で2回目の国民投票を行うべきだと多くの人が訴えているのは、これが理由の一つだ。

現政権にはもちろん、そのつもりはない。

しかしEU離脱まで残り6カ月となった今でも、すべてのプロセスは極めて不透明のままだ。



(英語記事 Reality Check: How are Brexit preparations getting on?