
2018年09月26日 14:26 公開
レベッカ・マーストン、BBCニュース・ビジネス記者
米服飾大手のマイケル・コース・ホールディングスは25日、イタリア同業ヴェルサーチを21億ドル(約2370億円)で買収することで合意したと発表した。しかし、一部のヴェルサーチファンはこれに不満なようだ。
ヴェルサーチのクリエイティブ・ディレクター、ドナテラ・ヴェルサーチ氏は「とてもわくわくする瞬間」で、買収によって「ヴェルサーチが最大限に可能性を発揮できる」と話した。
ドナテラ氏は1997年、兄のジャンニ・ヴェルサーチ氏が連続殺人犯に殺害されて以降、同ブランドを率いている。
マイケル・コースのジョン・アイドル最高経営責任者(CEO)は、ドナテラ氏が今後もヴェルサーチの「クリエイティブ面のビジョン」を主導していくと述べた。
アイドルCEOは、ヴェルサーチが「イタリア高級ファッションの縮図」になっていると説明し、買収はマイケル・コースによって重要な節目になると話した。
併せて、社名をカプリ・ホールディングスに改称すると発表した。
4年前に同社の株式20%を取得していたプライベート・エクイティー(PE)のブラックストーン・グループは、持ち株を全て売却するという。
マイケル・コースは今後、ヴェルサーチの店舗を現在の200軒から300軒に増やしたい考えだ。
さらに、靴やアクセサリーといった安価で多売しやすい製品に注力し、売り上げに占める割合を35%から60%に引き上げることで、全体の売上高を現在の2倍に当たる20億ドルまで拡大したいとしている。
ヴェルサーチの鮮やかで特徴的な製品はこれまでに世界のトップスターたちに着られ、ほとんどの他ブランドよりも多く新聞や雑誌の紙面を飾った。
転機となったのは1994年、映画「フォー・ウェディング」のプレミアに主演のヒュー・グラント氏と登場した当時無名のエリザベス・ハーレー氏が、ヴェルサーチのドレスを着ていたことだった。タブロイド紙はその光景が信じられなかった。
それまでイタリアのファッションブランドの一つでしかなったヴェルサーチは、その時から「あのドレス」と同義となった。
その後、ヴェルサーチは著名人の間で大きな人気を獲得し、マイケル・ジャクソン氏や故ダイアナ元妃がファンとなった。ダイアナ元妃は、同じくヴェルサーチをひいきにしているエルトン・ジョン氏と共に、ジャンニ・ヴェルサーチ氏の葬儀に参列していた。
最近ではラッパーのニッキー・ミナージュ氏や、リアリティー番組で有名となったカーダシアン一家およびジェンナー姉妹などもヴェルサーチを着ている。ビクトリア、デイビッド・ベッカム夫妻は、ドナテラ氏がツイッターでフォローしている161人に含まれている。
https://www.instagram.com/p/BoAJ-U2nZce/?hl=en&taken-by=donatella_versace
しかし、今回の買収によってヴェルサーチの魔法が壊れてしまうのではないかという不安は不必要かもしれない。
マイケル・コースは安価なコレクションで幅広い顧客層を獲得している一方で、高級ブランドとしても知られている。
創業者のマイケル・コース氏は、最初の女性向け既製服のコレクションをフランスの高級ブランド「セリーヌ」で発表した。
マイケル・コースの顧客には歌手のテイラー・スウィフト氏、女優のアンジェリーナ・ジョリー氏に加え、ファーストレディーのメラニア・トランプ氏、大統領補佐官のイバンカ・トランプ氏、そしてミシェル・オバマ氏などがいる。
昨年には、高級靴ブランド「ジミーチュウ」を約9億ポンド(約1440億円)で買収した。
アナリストらはヴェルサーチ買収によってマイケル・コースは今後、仏LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンやケリング、スイスのリシュモンといった複合企業の競合となっていくとみている。
ヴェルサーチの2016年の売上高は6億8600万ユーロ(約911億円)だったが、同社のジョナサン・アケロイドCEOは今年初め、近く年間売上高が10億ユーロに達する見通しだと述べていた。
アケロイド氏は買収後もCEOにとどまる。
ドナテラ氏がクリエイティブ・ディレクターに留まることも合わせれば、買収に反対するヴェルサーチファンは違いを見つけられないかもしれない。何より、愛されているブランドを買収してその魅力を引き裂くことがあるだろうか?