筆者は、新潮社と違って全く知られてはいない会社ではあるが、出版業界に属する編集者である。新潮社と異なり、左派的な出版社なので、自分の経験を新潮社にそのまま当てはめようとは思わない。

 しかし、右派言論界よりさらに読者層の少ない左派の世界だから、そこでの生き残りは並大抵のことではない。でも、だからこそ自信を持って言えることがある。

 例えば、安全保障をめぐっては、自衛隊が存在すると日本は危険になるというのが、左派言論界の常識であった。だが、毎年世界で戦争が頻発し、何十万人もが死亡するという現実の中で、軍隊なしにやっていけるというのは、あまりに常識から外れている。

 そんな中で、かつての左派の常識にとらわれていては、やはり生き残ってはいけないのだ。発想を根底から変えていかなければならない。

 そこで11年前、『我、自衛隊を愛す 故に、憲法九条を守る』という本を刊行した。防衛省の元高官数名が筆者の本である。本の帯文は防衛庁長官を務めたこともある加藤紘一元自民党幹事長に書いてもらい、自衛隊の機関紙である「朝雲」にも広告を出すという異例の本であった。

 それまで「護憲」本は販売不振が続いていたが、この本は反響を呼び、かなり売れた。それ以降、この路線を突き進んでいる。その後、自民党政府の官僚であった人の本も出した。近く、自民党の元幹事長や、自衛隊の元幹部に登場願い、安倍晋三首相の「加憲」案にモノ申す本を出す予定もある。
2007年3月、陸上自衛隊中央即応集団の編成祝賀式に黒い覆面姿で出席した特殊作戦群隊員
2007年3月、陸上自衛隊中央即応集団の編成祝賀式に黒い覆面姿で出席した特殊作戦群隊員
 左派的な常識からいうと、自衛隊と憲法9条は対立軸である。けれども、その二つの親和性という現実に目をつむらないことにより、左派業界の中でも新しい読者層を獲得できたというのが、その小さな経験が示すことでもある。

 新潮社が『新潮45』をどうしようと考えているのか、筆者には何の情報もない。「廃刊に近い休刊」と会社の幹部が説明しているようだから、そうなるのかもしれない。

 しかし、もし言論を大切にする気持ちが残っているなら、右派路線を継続した場合でも、独自性を発揮することは可能だという見地で、ぜひいろいろ試行錯誤をしてほしい。他の右派雑誌の行き過ぎをたしなめ、本物の右派、保守派を目指すという立ち位置である。

 その新しい右派の道を進む気持ちがあるなら、筆者には「ぜひこの人を編集長に」という提案がある。新潮社ともつながりの深い人である。その編集長の下で豊かな言論を誇る右派雑誌ができれば、左派の端くれに存在する筆者としても、闘いがいがあるというものだ。そうなれば、右派と左派が罵倒し合うのではなく、建設的に議論できる可能性が広がると思う。

 『新潮45』の今後に期待したい。だからこそ、重ねて言う。問題を言論の自由に還元してはならない。