それなのに企業が倹約モードから抜け切らない。企業は用途不詳の現預金を積み上げ続け、2012年度190兆円だった現預金残高は、16年度229兆円です。日本企業は全体として、何かを恐れてキャッシュを溜め込み続けている。何を恐れているかといったら、「未来」の不確かさでしょう。

 企業が本格的に現預金を使って前向きな投資をしたり、家計でいえば子育て中の若い夫婦が新しい家を買ったり、若者が将来の伴侶を見つけて結婚し、子どもをつくってみようと思うには、中長期的な見通しが必要です。

 戦後日本の若者にとって「未来」という二文字は、明るい希望の象徴でした。ところがいまは未来=不安、あるいは未来=不確かです。

 少子高齢化により高齢者に対する社会保障の負担が増えていくため、将来に希望を抱けない若い世代は悲観せざるをえない。これではお金を使うことはできません。

 直木賞を受賞した朝井リョウさんの小説『何者』(新潮社)には、現代を生きる若者の葛藤がリアルに描かれています。大学4年生の主人公たちは、就職活動に対する不安から疑心暗鬼に陥り、友情にも亀裂が入ってしまう。

 この本は第二次安倍政権発足直前の2012年11月に発刊されましたが、まさに日本の、あのころの空気を象徴しています。当時の大学生にとって社会に出ることは、まるで暴風雨のなかに飛び込んでいくようなことだったのではないでしょうか。
2018年9月、米ニューヨークで行われた国連総会の一般討論演説を行う安倍首相(共同)
2018年9月、米ニューヨークで行われた国連総会の一般討論演説を行う安倍首相(共同)
  大人はよく「いまの若者は挑戦意欲がなく、留学にも二の足を踏んで海外に出ない」といいます。しかし、若い人たちは、状況に対し合理的に行動しているにすぎません。

 就職自体があまりにも困難で、不確かなものだというのに、さらに留学という時間とお金のリスクを取る余裕など彼らにあるはずがない。若者の気持ちが縮んだのだとしたら、それはあくまで経済状況に順応した行動の結果だったと思うのです。