向谷匡史(作家、ジャーナリスト)

 男たちが居酒屋で盛りあがるテッパンの話題は三つ。「政治」「悪口」「下ネタ」である。中でも政治の話題は悪口とセットになるだけでなく、高尚そうな雰囲気も味わえるため、一定世代のオジさんたちは大好きである。それだけにホンネが飛び交う。

 このたびの安倍改造内閣を目前に控えた夜のこと。私がなじみの店で「居酒屋フレンド」たちと飲んでいると、「麻生(太郎副総理兼財務相)の野郎、態度がデカくねぇかい?」。年かさの店主が威勢よく切り出して、政治が酒のツマミになった。

 「それだけ麻生には力があるということだろう。でなければ、とっくに表舞台から消えておる」

 元商店主のご隠居がしたり顔で言えば、赤い顔をしたサラリーマンが割り込んできて、「石破(茂元幹事長)、総裁選でよくやったじゃないの。石破を内閣に取り込むかどうかで、安倍の器量が問われるんじゃないの?」

 「政治を器量の問題で語ってはいかん」。ご隠居がたしなめつつも、話は次第に盛りあがっていくのだが、「だけどよ、石破についた進次郎の野郎、これからどうするんだ?」。店主のこのひと言に、みんなが言葉を探すように押し黙った。

 昨年8月、安倍改造内閣の目玉として話題になったのが、小泉進次郎氏の入閣問題だった。是々非々のスタンスとはいえ、安倍政権を批判して人気の進次郎氏を取り込めば、内閣支持率は確実にアップする。

 自民党の二階俊博幹事長も、進次郎氏の入閣、もしくは党役員就任について「安倍総理の念頭にあるはず」、「何の役でも何大臣でも務まる人だと思っていますよ」とラブコールを送ったが、結局、進次郎氏は「入閣拒否」。党の筆頭副幹事長に就いた。

 このときは居酒屋フレンドの口もなめらかで、
「若けぇからな。出る杭(くい)になって頭をたたかれることを嫌ったんだ」
「今、入閣すれば、安倍に『塩』を送ることになる」
「安倍内閣より本体の自民党で力を蓄える。当然の戦略だな」

 それぞれが政治評論家になるほど、進次郎氏の入閣問題は「絵解き」がしやすく、店主が締めくくって、こう解説した。

 「ほれ、昔、ロックやフォークの人気歌手がNHK『紅白』の出演要請を蹴(け)飛ばすことで人気を煽(あお)っただろう? 進次郎もあれと同じようなもんだな、うん」

 ところが今度の改造内閣は、「もし、入閣要請があった場合、進次郎氏はどうするだろうか」ということについて、居酒屋フレンドの面々は昨年のようにペラペラと分析はできなかった。
国会改革に関する提言をまとめ、記者会見する自民党の小泉進次郎氏=2018年6月
国会改革に関する提言をまとめ、記者会見する自民党の小泉進次郎氏=2018年6月
 言い換えれば、彼らの沈黙は入閣うんぬんとは別次元において、進次郎氏の立ち位置とイメージが微妙に変わってきたことの証左と言えるだろう。

 これまでの爽やかイメージであれば、進次郎氏は早々と石破支持を表明し、旗幟(きし)を鮮明にしたはずだ。負け戦を承知で、己が掲げる大義と信念に殉(じゅん)じる。これが進次郎氏の魅力であり、国民の多くが期待した。私もそうするものと信じていたし、メディアも進次郎氏の支持表明によって石破大逆転もあると報じた。