2018年10月03日 13:40 公開

レベッカ・マーストン BBCビジネス担当記者

インターネット通販大手のアマゾンは2日、米国と英国の従業員数十万人について、賃金を引き上げると発表した。

米アマゾンの従業員は最低でも時給15ドル(約1700円)となる。英国ではロンドンでの最低賃金が現在の時給8.2ポンド(約1210円)から10.5ポンド(約1550円)に、ロンドン以外での最低賃金が時給8ポンド(約1180円)から9.5ポンド(約1400円)に引き上げられる。

アマゾンに対しては、雇用慣行への批判や、同社倉庫の労働環境への不満の声が高まっていた。

また同社は、納税額をめぐっても活動家から攻撃を受けている。

アマゾンは世界最大の企業の1つで、企業価値は約1兆ドル。

創業者のジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は世界一の大富豪で、所有資産の価値は約1500億ドルと推計されている。

「これは始まり」

新たな賃金体系は11月1日から適用され、常勤と非常勤を問わず全職員が対象となる。一時雇用や季節雇用の従業員も適用対象。

新体系により、米国で約25万人、英国で1万7000人の従業員が利益を得る。数十万人いる季節雇用従業員の賃金も引き上げられる。

英全国都市一般労働組合(GMB)のティム・ローチ書記長はアマゾンの発表を歓迎したものの、さらに追加施策が必要だと語った。

「アマゾンのオーナーは世界一の大富豪なのだから、この問題をもう少し掘り下げるのに適任だろうと思うが、これは始まりだ」

GMBに参加しているアマゾン従業員の90パーセントが「業務で繰り返される痛み」を経験したとローチ氏は述べた。

GMBはアマゾンが、同社施設内におけるGMBの活動を認めなかったとした。

英労働組合会議(TUC)のフランセス・オグレイディー書記長は、「アマゾンがもし自社の従業員を大切にしようと本当に真剣なら、労働組合を認めなければならない」「今日の発表は(中略)始まりに過ぎず、気前のよい大きな行動だと気をそらされるべきではない」と述べた。

アマゾンの賃上げ発表前には、欧州全土の同社従業員によるストが広がっていた。

有料会員制プログラム「アマゾンプライム」の販促イベントに合わせ、アマゾン従業員はこの夏、行動を起こした。ドイツ、スペイン、ポーランドの同社倉庫に勤務する従業員は、より良い労働環境の提供を同社に進めさせることを目的にストを実施した。

政治的な動き

アマゾンは米国でも従業員からの圧力を受けている。

アマゾン従業員の賃上げは、小売業の労働組合が主導する、時給15ドルに最低賃金の引き上げを目指す「ファイト・フォー・フィフティーン(15のための闘い)」運動の全米での高まりと重なっている。

ターゲットやウォルマートなどの競合する小売大手も既に、賃上げを余儀なくされた。

米大手企業は、米国の失業者数が非常に少なくなっていることから、雇用面での課題が大きくなっており、従業員を引き付けるため賃上げを強いられている。

民主党上院議員でアマゾンの批判者としても有名なバーニー・サンダース氏はロイター通信に対し、「認めるべき功績は認めたいと思う。ファストフード業界や航空業界、小売業などの利益が上がっている他企業が、これに追随すべきでない理由はない」と述べ、アマゾンの賃上げは他社も追随すべき良い動きだと評価した。

調査会社グローバルデータ・リテールのニール・サンダース常務は、アマゾンの決定に政治が一定の役割を果たしたと語った。「アマゾンの売り上げ、利益、企業評価が急上昇する中で、同社がけちな雇用主だとの言説は、多くの顧客層にとって受けが良くない」。

持ち株制度

アマゾンは、現在時給7.25ドル(約820円)となっている米連邦の最低賃金に対する引き上げ命令を強く申し入れていくと述べた。しかし、米国の29州やワシントンでは、時給7.25ドルを上回る最低賃金を独自に設定している。

アマゾンの広報担当者ジェイ・カーニー氏は、「米連邦の最低賃金を引き上げるための議会の支援を得られるよう、我々は働きかけていく。7.25ドルという現在の金額は、10年近く前に定められたものだ」と語った。

英国の法定最低賃金は、25歳以上は時給7.83ポンド(約1160円)、21歳から24歳までは7.38ポンド(約1090円)となっている。

アマゾンはまた、同社の持ち株奨励制度の1つを段階的に廃止すると述べた。さらに、「この制度廃止と新たに引き上げた現金報酬による正味の影響は、合計では従業員にとって給与の大幅増額となるし(中略)、さらなる賃上げの可能性もある」と付け加えた。

ベゾス氏は「我々は批判者に耳を傾け、何をしたいのか真剣に考えて、先頭に立とうと決めた」と話した。


<解説>キム・ギトルソン ニューヨークビジネス担当編集委員

賃金に関するアマゾンの決定を理解する方法の1つは、政治だ。

米アマゾン従業員が1年間に支払われる賃金の中央値を、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスは10秒ごとに稼いでいるとの計算もある。

この格差は、米国で大企業に課税する法案を提出したバーニー・サンダース上院議員のような人々から、賃上げの政治的圧力を引き出している。サンダース議員が提出したのは、「補助金相殺による悪徳雇用主抑止法(ストップBEZOS法)」と呼ばれる、企業への課税を求めた法案だ。アマゾンのような低賃金の支払いが、同社従業員を食料補助などの政府プログラムに依存させたままにしていると、同議員は主張している。

しかし別の、もしかするとアマゾンの決定をとらえるのにより重要な方法は、経済だ。

10年近くなかった記録的な失業者数の少なさと賃金上昇率が見られるなど、米国経済はいま好景気だ。

米労働統計局によれば米連邦の最低賃金は時給7.25ドルだというが、小売業界で働く人の平均時給は現在13.2ドル(約1500円)となっている。

このことが、アマゾンだけでなくその競合であるコストコやターゲット、ウォルマートにも圧力をかけ、これらの企業は全社とも、最低賃金で働く従業員の賃上げを発表した。

この文脈で言えば、アマゾンは単に、タイミングのいい動きを先読みして、ついていこうとしているのだ。年末商戦の準備という重要な時期に、従業員を引き付けるために。


(英語記事 Amazon raises wages amid criticism