2018年10月03日 14:44 公開

ポール・リンコン、BBCニュースウェブサイト科学編集長

ノーベル物理学賞が、55年ぶりに女性に贈られた。

カナダ・ウォータールー大学のドナ・ストリックランド博士(59)は、1903年のマリー・キュリー氏、1963年のマリア・ゲッパート=マイヤー氏に続き、同賞を受賞した3人目の女性となった。

ストリックランド氏は、米ベル研究所出身のアーサー・アシュキン博士(96)および米ミシガン大学のジェラール・ムル博士(74)と共に、レーザー物理学分野での功績が認められた。

アシュキン博士は生物系の研究に使われる光ピンセットと呼ばれるレーザー技術を開発した。

ムル氏とストリックランド氏は、最も短く強力なパルスレーザーを作り出すことに成功した。「チャープ・パルス増幅(CPA)」と呼ばれるこの技術は現在、がんのレーザー治療や、毎年何百万回と行われている視力矯正手術に使われている。

ストリックランド博士はBBCに対して、ノーベル物理学賞が50年以上もの長い間、女性に授けられていなかったことが「驚きだ」と語った。

博士はその一方で、自分自身は「常に平等に扱われてきた」と強調し、「今回は男性2人も受賞していて、私と同様に受賞にふさわしい人物だ」と話した。

物理学界では9月末、欧州原子核研究機構(CERN)が主催したワークショップで、男性科学者が物理学は「男性によって成り立った」と発言し、「非常に攻撃的な」講義を行った。

CERNは1日、この科学者を即日、出入り禁止処分とした。

ストリックランド博士はこの物理学者の発言について「馬鹿げている」と述べ、こうしたコメントを「自分自身に向けられたものと」受け止めないできたと話した。

1963年にノーベル物理学賞を受賞したマリア・ゲッパート=マイヤー氏はドイツ生まれの米国人で、原子核の殻構造に関する発見が称えられた。

ポーランド生まれのマリー・キューリー氏は夫のピエール・キュリー氏およびアンリ・ベクレルと共に、放射能研究の功績が認められて同賞を受賞した。

同賞の賞金は900万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)。

ノーベル賞受賞についてストリックランド博士は「まず真っ先に、これは何事だ、狂ってると思うしかないので、私も最初はそう思った。本当なのか、ずっと考えている」と話した。

「ジェラールとの共同受賞については、彼は私の指導教授で恩師でもあるし、CPA技術を見事に進歩させてくれたので、もちろん受賞にふさわしい。アシュキン博士の受賞も、とても嬉しい」

「アシュキン博士は早くから数々の発見をし、他の人はそれをもとに素晴らしい成果を出している。彼がやっと評価されたことはすばらしい」

米国物理学協会(AIP)は声明で3人を祝福し、「3人の功績によって、視力矯正手術やペタワット級の強力レーザー、ウイルスやバクテリアを捕まえて研究する方法など、数え切れない応用技術が可能となり、これからも増えていくことが期待されている」と述べた。

「また、ストリックランド博士が55年も続いた女性受賞者の空白期間を終わらせてノーベル物理学賞を受賞したことも素晴らしく、今年のノーベル賞を歴史的なものにした」

3人の功績とは

ストリックランド、ムル両氏がCPAを開発する以前は、レーザーパルスを強くしようとすると光を増幅する材料が壊れてしまうため、その力は限られていた。

これを克服するため、2人はまずレーザーパルスを時間的に引き伸ばすことでピーク強度を下げ、そこから増幅させ、圧縮する方法を編み出した。

レーザーパルスを時間的に圧縮し短くすると、小さな空間により多くの光を閉じ込めることができる。これによって、パルスの強度が飛躍的に高まった。

CPAは現在、高強度レーザーの標準となっている。

アシュキン博士は、光の放射圧で物体を動かすというSFの夢を叶えた。これを実現するために、アシュキン氏は粒子や原子、ウイルス、生きた細胞などをレーザーでつかむ光ピンセットを開発した。

アシュキン氏の研究でまず最初に、レーザー光線を小さな粒子に当てることで分子を光の中央に引き寄せ、固定することが可能になった。

1987年には、光ピンセットで生きたバクテリアを傷つけることなくつかむことに成功した。この技術は現在、生命の仕組みの研究に幅広く使われている。

近年のノーベル物理学賞受賞者

2017年:レイナー・ワイス氏、キップ・ソーン氏、バリー・バリッシュ氏。重力波の観測への貢献

2016年:デイビッド・サウレス氏、 ダンカン・ハルデイン氏。マイケル・コステリッツ氏。物質の特異な状態の研究

2015年:梶田隆章氏、アーサー・マクドナルド氏。ニュートリノ振動の発見

2014年:赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏。青色発光ダイオードの発明

2013年:フランソワ・アングレール氏、ピーター・ヒッグス氏。ヒッグス粒子の理論の発見

2012年:セルジュ・アロシュ氏、デイビッド・J・ワインランド氏。光と物質に関する研究の業績

(英語記事 First woman Physics Nobel winner in 55 years