富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授)

 ファン・ビンビン(范冰冰)は政争に巻き込まれてしまったのか、それとも軍の陰謀に利用されているのか―。杳(よう)として行方が分からなくなった女優をめぐり、中国のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では8月ごろから盛んに怪情報が飛び交った。

 もっとも、ファン・ビンビンという名前を聞いても多くの日本人にはピンとこないかもしれない。だが、ハリウッド映画『X-Men:フューチャー&パスト』や『アイアンマン3』に出ていたアジア系の女優といえば、何となく顔が思い浮かぶのではないだろうか。

 その国際派女優、ファンの問題が、今では日本のお茶の間でも身近な話題となった。失踪の理由が脱税であること、欧米メディアが先行して報じ始めたからである。

 ファンの年収が50億円近いということも衝撃を与えたに違いないが、中国のメディア関係者によれば、「本当はその3倍、4倍であっても不思議ではない」という。

 いったい何が起きたのか。「今年6月2日を最後に彼女の微博(ウェイボー)が更新されなくなり、8月から騒ぎになり始めました。同じころ彼女のパートナーでやはり有名男優のリー・チェンのアカウントまで更新されなくなったのです。犯罪絡みであれば警察が放置するはずはなく、やはり当局の何かしらの捜査対象となったと見るのが自然でしょう」(同前)

 結局10月に入り、当局がファンと関連会社による約1億4千万元(約23億円)の脱税を認定、追徴金など約8億8千万元(146億円)の支払いを命じたと、国営新華社通信が報じた。ファンも微博で「法律を尊重すべきだった」と6000万人のフォロワーに向けて謝罪した。

 では、なぜこの時期に彼女がピンポイントで狙われたのか。まず飛び交ったのが政争への巻き込まれや軍の関与だった。だが、そんな大げさな話ではなかったのである。
中国の人気女優、ファン・ビンビン(范冰冰)
中国の人気女優、ファン・ビンビン(范冰冰)
 というのも、彼女を名指しこそしていないが、実名で脱税を告発した人物が存在し、その影響がファンに及ぶことは早くからSNSで話題となっていたからだ。

 前出のメディア関係者が語る。「元CCTV(中国中央テレビ)の人気キャスター、崔永元氏の告発です。彼はCCTVに在籍中から、メディアの中で芸能界に横行する不正なお金の流れを告発するための資料を大量に保管していて、今回、その一部を暴露したといわれています。告発の動機は芸能界への恨みです」