2018年10月05日 13:50 公開

ロシアのスパイが世界各国でサイバー攻撃の計画に関わっていたとして、米当局は4日、ロシアの情報部員7人を起訴した。

米司法省によると、スパイが標的にしていたのは化学兵器監督機関、反ドーピング機関、米国の原子力企業など。

この疑惑は、ロシアが世界各地で組織的に行っているとされるサイバー攻撃に対する対抗措置の一環だ。

これに対しロシアは、一連の疑惑を「西側のスパイ恐怖症」だと一蹴している。

ロシアのサイバー攻撃疑惑

  • オランダは、ロシアが化学兵器禁止機関(OPCW)をハッキングしようとしていたと訴えている。OPCWは、英国でロシアの元スパイが神経剤攻撃をされた事件を調査している
  • 英政府は、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が4件のサイバー攻撃に携わっていたとみている。攻撃の標的はロシアとウクライナの企業、米民主党、英国の小規模テレビ局だった。
  • 米国は、反ドーピング機関や国際サッカー連盟(FIFA)、米原子力発電企業ウェスチングハウスをロシアの情報機関が標的にしていたとしている
  • カナダは、モントリオールに本拠を置く世界ドーピング防止機構(WADA)やスポーツ界での倫理規定違反をロシアの情報機関を主導したことに「確信を持っている」としている

このほかオランダ当局は、4月に容疑者4人から押収したラップトップ型パソコンは、ブラジルとスイス、マレーシアで使われた形跡があると発表している。

オランダはこのパソコンが2014年、ウクライナ反政府組織の支配地域を通過したマレーシア航空機MH17便の撃墜事件の捜査を標的として使われたとみている。この事件では乗員乗客合わせて298人全員が死亡した。

ロシアの主張は?

ロシア外務省は4日夜に公式声明を発表し、ロシアが「仕組まれたプロパガンダ・キャンペーンのさらなる」被害者になったと述べた。

「ロシア国民がOPCWにサイバー攻撃を企て、マレーシア航空MH27便に関するデータを手に入れようとしたというこれらの言い分を誰が信じるのか分からない。まるで攻撃の標的が近くにある必要があるかのようだ」

「携帯端末を持つロシア人全てが、スパイと見られている」

西側諸国の主張は?

米国のジョン・ディマーズ司法次官補(国家安全保障問題担当)は記者会見で、攻撃の多くはスポーツ関連の各組織の信頼を傷つけ、「真実の認識をゆがめる」ためのものだったと述べた。

次官補は、サイバー攻撃の目的は、ロシアのスポーツ選手が成績向上のため組織的にドーピングを行っていた証拠が発見され、国際大会への出場を禁じられたことへの報復だったと説明した。

米国は捜査結果を受けてロシア国籍の7人を起訴した。うち4人はオランダから国外追放処分を受けており、残りの3人は、2016年の米大統領選で民主党の事務所をハッキングしたとして今年7月に起訴されている。

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7人はこのほか、詐欺や個人情報の窃盗、マネーロンダリング(資金洗浄)の罪でも訴追された。

7人は全員、ロシアにいるとみられている。ロシアは米国と身柄引渡し協定を結んでいない。

一方、テリーザ・メイ英首相とオランダのマルク・ルッテ首相は共同声明を発表し、OPCWへのサイバー攻撃計画は「私たち全員の安全を保障する世界の価値観や規則を、GRUが無視している」ことの表れだと述べた。

ジェレミー・ハント英外相も、英国は今後、西側諸国とさらなる対ロ制裁について話し合うと表明した。

欧州連合(EU)も、サイバー攻撃疑惑を批判している。

容疑者たちはオランダで何を

オランダ当局が特定した容疑者4人のうち、2人はITの専門家で、2人は活動を支援する工作員ア。いずれも、外交官旅券を持っていた。外交官は論理的には派遣先で不逮捕特権を持つため、オランダ当局はこの4人を逮捕できなかった。

オランダ軍情報保安局(MIVD)のオンノ・アイヘルスハイム少将によると、4人は車を借り、ハーグにあるOPCW事務所のWiFiネットワークに入り込むため、隣接するマリオット・ホテルの駐車場に停車した。

トランクに入っていた機器はOPCWの方向を向いており、ログイン情報を横取りするために使われていた。機器のアンテナは車の後部の荷台で、ジャケットに覆われていたという。

アイヘルスハイム少将によると、ハッキングが探知されると、4人は持っていた携帯電話のうち1台を破壊しようとした。

4人が所持していた携帯電話のうち1台はその後、モスクワのGRU建物内で作動したのが確認された。また、別の1台にはGRU近くの通りから空港までのタクシーの請求履歴が残っていた。

アイヘルスハイム少将は、容疑者らはOPCWが標本を分析するスイス・シュピーツの研究所にも行こうとしていたと話した。

4人は研究所までたどり着けず、すぐに国外退去となったという。

容疑者は?

MIVDは、容疑者はハッカーのアレクセイ・モレネツとエフゲニー・セレビアコフ、ならびに補佐役の工作員、オレグ・ソトニコフとアレクセイ・ミニンの4人だと特定した。

4人はGRUの26165部隊の所属だという。APT28とも呼ばれ、ピーター・ウィルソン在オランダ英国大使によると「世界中に隊員を送り込み、恥ずかしげもなく近接アクセスによるサイバー攻撃を行っている」部隊だという。

この攻撃方法は、Wifiネットワークへのハッキングを行うもの。

ウィルソン氏は、容疑者グループはスイス・シュピーツにあるOPCW認定の研究所へ行く計画を立てていたと説明した。この研究所では、今年3月に英ソールズベリーでロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんに使用された神経剤ノビチョクの特定が行われていた。

MIVDによると、ロシアのサイバー攻撃が阻止された当時、OPCWはスクリパリ氏の事件だけでなく、ロシアが支援しているシリア政府軍が今年4月にダマスカス近郊のドゥーマで使用したとされる化学兵器についても捜査していた。

ウィルソン氏は「GRUは、積極的なサイバー攻撃によってロシア自身がまいた火種の後始末に当たっている。WADAが明らかにしたドーピングやOPCWが特定した神経剤などだ」と語った。

パソコンには何が入っていた?

オランダ当局は、容疑者から押収されたラップトップ型パソコンは、ブラジルとスイス、マレーシアで使われた形跡があったと発表した。

マレーシアでのサイバー攻撃は、同国の司法長官事務所や警察に加え、マレーシア航空MH17便撃墜事件の調査も標的になっていたとウィルソン在オランダ英国大使は述べた。

オランダが主導する国際調査団は今年初め、MH17便を墜落させたミサイルはロシア軍のものだと結論付けた。この事件では複数のオランダ人が犠牲になった。

一方、ロシアは事件への関与を一切否定している。

パソコン内のデータからは、スイス・ローザンヌでWADAが所有するパソコンへのハッキングを行った形跡が見られた。WADAはロシア人選手のドーピングを指摘している。

(英語記事 West accuses Russia of global cyber-plots