しかも、難しい最先端科学の話ではあっても、授賞式前後には古風な王宮や晩餐(ばんさん)会の様子なども映される。ノーベル賞は、日本人から見て有名で分かりやすく、そしてまさに誇るべき権威なのだ。

 ただ、日本はタテ社会とはいえ、実は日本の庶民が権威を嫌うという調査もある。大きくて強くて立派そうなものを嫌う人もいる。弱い方を応援したくなる「判官びいき」も、日本人の心理だ。中小企業が大企業と闘うドラマが人気を集めたのも記憶に新しい。

 ノーベル賞の受賞者は当然、並の人間とは違うのだが、メディアでは受賞者の庶民性をとかく強調する。晩餐会や社交ダンスに戸惑う受賞者の姿も、微笑ましく報道される。

 雲の上の人が、さらに上の人から賞をもらうのではない。私たちの仲間である「普通の人」が努力を重ね、科学という公平な世界でついに欧米の科学界で認められ、王様にまで褒めてもらえるその姿に、私たち日本人は感動するのである。

 「日本人ノーベル賞」の大報道は、日本人に元気を与え、子供たちの学習意欲を高める。子供たちはノーベル賞に憧れるし、科学が好きになる。例えば、化学が不人気でも、日本人がノーベル化学賞を取ると、化学を学ぶ若者が増える。これはとても素晴らしいことだ。

 ただ、大人はもう少し冷静さも必要だろう。ノーベル賞をはじめ、海外の受賞歴だけで人を判断するのではなく、私たち日本人自身の「鑑識眼」を磨きたい。

 ノーベル賞を取っても取らなくても、偉大な科学者や文学者はいる。海外での受賞を待つまでもなく、メディアも評価してほしいし、紹介してほしい。海外権威を重視するあまり、日本人全体が「権威主義的性格」となり、硬直した思考で海外権威を無批判に受け入れ、他を否定するようでは困る。

 また、ノーベル賞を取るためには、たった一人でコツコツ努力を重ねればいいわけではない。自然科学のノーベル賞ですら、獲得のための活動があり、誰が誰を推薦するかが授賞のポイントになる。ましてや、文学賞や平和賞には、政治的な側面などさまざまな力が働く。
2018年10月1日、ノーベル医学生理学賞の発表会場に映し出された、本庶佑京都大特別教授(右)と、米テキサス大のジェームズ・アリソン教授=ストックホルムのカロリンスカ研究所(ロイター=共同)
2018年10月1日、ノーベル医学生理学賞の発表会場に映し出された、本庶佑京都大特別教授(右)と、米テキサス大のジェームズ・アリソン教授=ストックホルムのカロリンスカ研究所(ロイター=共同)
 子供たちには、そんな大人の事情を知らせなくても良いだろう。ノーベル賞報道を通して、夢と意欲を育ててほしい。

 だが、私たちは大人だ。子供の夢を守るためにも、ノーベル賞を正しく評価し、活用していきたい。