2018年10月10日 16:26 公開

今年3月に英南部ソールズベリーで起きたロシアの元スパイ親子の毒殺未遂事件をめぐり、英調査報道サイト「べリングキャット」は9日、容疑者の1人がロシア国民に贈られる最高の栄誉称号を授与された軍情報機関職員だと発表した。

べリングキャットは8日、インターネット上の資料と流出書類を組み合わせ、3月の毒殺未遂事件に関連する人物の1人を、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)で働く軍医アレクサンデル・ミシュキン医師(39)と特定したとサイト上で発表していた。

同サイトはさらに9日に英議会で記者会見し、ミシュキン医師が2014年に、ロシア国民に贈られる最高の栄誉称号である「ロシア連邦英雄」をウラジーミル・プーチン大統領から授与されていたと述べた。

記者会見したべリングキャットの調査員クリスト・グロゼフ氏によると、受賞理由は「ウクライナでの行動」によるもの。

グロゼフ氏によると、プーチン大統領が博士と握手し、称号を授与する写真をミシュキン博士の祖母が所有している。この写真は「村の全員が見た」という。

ロシア政府はミシュキン医師の身元について質問されたが、回答していない。

BBCはロシア北部ロイガで、幼少期のミシュキン医師を知る人物2人に接触した。2人は写真から、ソールズベリー毒殺未遂事件後に警察が公表した画像に写る男性はミシュキン医師だと認めた。

べリングキャットは、ミシュキン医師の実際のパスポートと、アレクサンデル・ペトロフを名乗り英国を旅行していた男のパスポートを比較し、記された出生日が同じだったと明かした。

同サイトは容疑者の身元をミシュキン医師と確認する過程を詳述した記事で、電話や自動車保険の記録を含むインターネット上のデータベースと、後に入手したミシュキン博士のパスポートおよび自動車免許の写しを使って身元を突き止めたと説明した。

またべリングキャットは、ミシュキン博士と軍士官学校で一緒だった可能性がある人物数百人に、ソーシャルメディアを使って接触したとも明かした。

ほとんどの人は調査に回答しなかったが、完全匿名を条件にした人物が、ロシア国営放送RTのインタビューでアレクサンデル・ペトロフを名乗る容疑者はミシュキン医師だと話したという。

べリングキャットのグロゼフ氏は、「この人物によると、ミシュキン医師の同級生や同僚の全員が2週間前、メディアに話をしないようにと通達を受けたそうだ」と記者会見で話したた。

ベリングキャットによると、ミシュキン医師はロシア海軍の軍医を訓練する施設で医師資格を得て、同時期にGRUに採用された。医師はさらに、政情不安が続いていた2013年から2014年を含め、たびたびウクライナを訪れていたという。

ミシュキン医師のほか、べリングキャットは先月にも、毒物未遂事件のもう1人の容疑者について、GRUのアナトリー・チェピガ大佐だと発表した。ロシア政府はこれについても否定した。同政府は、同事件に関する情報やメディア記事を話題にするつもりはない方針を示している。

ウクライナで起きていること

2014年の春、欧州連合(EU)との関係を強化する協定への署名を中止するウクライナ政府の決定を受けて、首都キエフ中央部で大規模な抗議行動が起こった。抗議活動では、抗議者と警察が衝突して死者が出たほか、親ロシアで知られた当時のビクトル・ヤヌコビッチ大統領が亡命する結果となった。

そのすぐ後、ロシア軍がウクライナの領土だったクリミアを併合。そして、主にロシア語が話されるウクライナ東部で情勢が不安定となった。

政情不安は本格的な内乱となり、反政府勢力がウクライナ領土の大部分を占拠した。以降、反政府勢力とウクライナ政府軍の先頭により、数千人が死亡している。

ロシア政府は同地域の分離主義者に対する常設軍や重火器の提供を否定しているが、ロシア人「志願兵」が反政府勢力を支援していると認めた。


アレクサンデル・ミシュキン医師の足跡

ロシア最北部の小さな村ロイガは、国際的なスパイ疑惑の中心とは程遠い様子の場所だ。

住民は1000人以下で、電車は通っているが道路は舗装されていない。村が小さすぎるため、地図サイトのグーグルマップにも表示されない。

しかしロイガは、ソールズベリーで起きたロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏毒殺未遂で英当局が容疑者と疑う第2の男、「アレクサンデル・ペトロフ」の正体を突き止める上で決定的な役割を果たしている。


神経剤使用事件の関連は

英国の情報機関、軍事情報活動第6部(MI6)に機密を提供していた元GRU職員のスクリパリ氏と娘のユリア・スクリパリさんは3月4日、有毒の神経剤「ノビチョク」を浴びて一時は意識不明になった。2人は命を取りとめたものの、ロシアと直接関わりのないドーン・スタージェスさん(44)は7月、ノビチョクを浴びて病院で亡くなった

ロンドン警視庁と英検察庁は先月、ソールズベリーの神経剤攻撃で、ロシア人2名を殺人未遂容疑で訴追する十分な証拠があると明かしていた

捜査当局によると2人は3月2日、アレクサンデル・ペトロフとルスラン・ボシロフの名前が書かれたパスポートを使って英国に入国した。ただ2人は、英国内の旅行では偽名を使った可能性が高いという。

スクリパリ氏の自宅で、ドアの取っ手にノビチョクを塗りつけた疑いがある容疑者2人の足取りは、監視カメラによって複数画像が撮影されており、警察がこの画像を公表した。

この問題をめぐっては英ロ両政府が互いに非難と否定を繰り返し、外交官の追放や国際的な制裁に至った。



(英語記事 Skripal attack: Second Salisbury suspect 'decorated' by Putin