大貫剛(科学ライター)

 今年6月、米トランプ政権が宇宙軍の創設を指示したことが話題となった。宇宙軍と聞けば、アニメ『機動戦士ガンダム』のような宇宙戦争を想像する人も少なくないだろう。

 筆者もいわゆる「ガンダム世代」なので気持ちは理解できるのだが、現実に宇宙で戦闘機やロボットが格闘戦をするには、現代科学の限界を遥かに超えた高性能エンジンを必要とする。まさに「サイエンス・フィクション(SF)」そのものだ。

 米軍全体の目的は米国の安全保障であって、相手として想定しているのは異星人や宇宙植民国家ではなく、地球上で脅威となる国家やテロ集団だ。従って、米国の軍事衛星の目的は、地球上における米国の外交や、米軍の行動を有利にすることにある。これは米軍に限ったことではなく、どの国でも軍事衛星は地球上の安全保障のための道具であって、派手な宇宙戦争を見据えているわけではない。

 そこで本稿では、そもそも軍事衛星とはどのようなものであり、どのような課題を抱えているのか、日米を中心に解説していく。

 まず軍事用途はさておき、人工衛星そのものの基本的な特徴を確認しよう。人工衛星の利点は、年単位の長期間にわたって高い場所を飛行し、地球上を広く見渡せることにある。また宇宙空間は領土や領空のような国家主権が及ばないため、平時においても他国上空を飛行できる点は、軍事衛星にとっては大きなメリットとなろう。

 一方、航空機などと比べた場合のデメリットは地球上から宇宙へ出たり、地球上へ戻ったりするのに莫大(ばくだい)なコストがかかる点にある。このため軍事非軍事にかかわらず人工衛星の用途は、物体の運搬ではなく情報のやり取りに関するものが大半だ。安全保障においても情報が重要であることは言うまでもなく、一般に軍事衛星と呼ばれるもののほとんどは、外交・公安・軍事といった安全保障に役立つ情報の取得を目的としている。

2016年5月、ダイバーシティ
東京プラザの広場に立つ
全長18メートルの実物大「RG1/1 RX-78-2ガンダムVer.G FT」
 日本政府は宇宙開発基本計画を策定し、安全保障や科学、民間活動などさまざまな用途に役立つ人工衛星の整備を掲げている。この中で安全保障用途の色が濃い衛星を挙げていこう。

 情報収集衛星(IGS)は、日本が保有する衛星の中でも特に安全保障用途に特化した衛星だ。

 宇宙から地上を撮影する地球観測衛星は、安全保障目的で利用される場合は偵察衛星と呼ばれることが一般的だ。基本的には用途の違いであって機能に大きな差はないが、偵察衛星は非軍事衛星より高性能で、撮影した画像などは公開されないことが多い。

 IGSは安全保障のほか、大規模災害の際も画像を収集する目的の衛星とされているが、撮影された画像は特定秘密に指定され公開は極めて限られている。災害時の国内外への画像公開は主に宇宙研究開発機構(JAXA)の衛星が担当しており、IGSは事実上安全保障専用の偵察衛星と言える。