MDAは海上の船舶の位置や航行方向を宇宙から観測するもので、短い間隔で繰り返し観測する必要があるため既存衛星に加えて小型衛星も活用するなど、大量の観測データの集約や共有に主眼を置いている。

 これらは事故防止など民間にとっても有益な情報となるが、他国の軍事衛星や艦船の活動を監視する安全保障目的の意味合いが強いと言えるだろう。

 また、冒頭では困難だと説明した宇宙空間での戦闘だが、方法がないわけではない。米国や中国は地上から発射したミサイルで衛星を破壊する実験を行ったことがあるが、大量のスペースデブリが発生するため、実戦での使用は自国の衛星にとっても脅威となりかねない。しかし、衛星を粉砕するのではなく強力な電波やレーザーで衛星の機能を失わせたり、偽の命令信号を送って衛星を乗っ取るなどの方法であれば、スペースデブリを増加させずに衛星を無力化することができる。

 また、低い軌道のスペースデブリは大気の抵抗で数日~数年程度で落下することが見込めるため、スペースデブリ発生のリスクを承知の上で攻撃することも、あり得ないことではない。このような脅威から人工衛星を守る方法は今後の課題となっている。

 このように安全保障分野における人工衛星の役割は増加の一途をたどっている。トランプ政権が宇宙軍創設を発表したのも、航空機を重視する空軍から宇宙部門を分離することでより積極的な宇宙戦力整備を図ろうという意図がある。と同時に、多数の衛星が必要となるMDAでは日米の衛星情報を共有するなど、同盟国の負担にも期待している。

 米国防総省の宇宙予算は日本円で2兆円以上もあり、軍事宇宙開発だけで日本のJAXAの10倍以上、日本の防衛費の半額に相当する。日本がどの程度の宇宙戦力を保有するのが妥当なのかは、慎重な検討が必要だ。早期警戒衛星や電子情報収集衛星は検討段階だが、もし衛星を開発し運用することになれば数千億円単位の予算が必要だろうし、宇宙基本計画や防衛省予算要求などでも衛星の開発までは明記していない。

 収集した情報を分析するノウハウの取得や、人材の育成も大きな課題だ。画像に写っているものが何なのか、短時間で正確に分析するには職人的な技能を必要とする。

 ディープラーニング(深層学習)など人工知能(AI)による自動処理も考えられるが、いずれにせよ費用と時間がかかる。衛星だけ整備しても情報分析に十分な予算を確保できなければ、衛星は役に立たない「張り子の虎」となるだろう。
2018年8月、安倍晋三首相(右)に対し、スペースデブリに関する勉強会の申し入れを行う(左から)小泉進次郎ワーキングチーム座長と河村建夫宇宙・海洋開発特別委員長(春名中撮影)
2018年8月、安倍晋三首相(右)に対し、スペースデブリに関する勉強会の申し入れを行う(左から)小泉進次郎ワーキングチーム座長と河村建夫宇宙・海洋開発特別委員長(春名中撮影)
 地球上の防衛力と同様、宇宙でも日本単独で全てを賄うのに要する予算の獲得は不可能だろう。米国をはじめとする諸外国と衛星を持ち寄り、情報を交換するなど協力して課題に対応することが求められる。

 また、安全保障専用とするのではなく民生用途にも活用することで費用対効果を改善したり、ベンチャー企業が開発する小型の衛星やロケット、データ利用事業を活用してコストを抑えるなど、宇宙ビジネスとの相乗効果にも期待が寄せられている。