2018年10月22日 12:32 公開

ミハイル・ゴルバチョフ元ソビエト連邦(ソ連)大統領は21日、中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱するとドナルド・トランプ米大統領が表明したことについて、核軍縮達成への努力をひっくり返すものと非難した。INF全廃条約は冷戦時代の1987年、ゴルバチョフ氏と当時のロナルド・レーガン米大統領が調印した。

ゴルバチョフ氏はロシア・インタファクス通信のインタビューで、トランプ氏による条約離脱計画は賢明でないと疑問を投げかけた。

トランプ氏はロシアが「(INF全廃条約に)長年違反してきた」と離脱理由を説明している。

ロシアは条約離脱の方針を非難し、報復を警告した。

ロシア政府は、ウラジーミル・プーチン大統領が近く、訪ロするジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)からの説明を求めると発表した。

トランプ氏の条約離脱表明に対し、ドイツが米国の同盟国で最初にこの動きを批判した。ハイコ・マース独外相は、条約離脱が欧州、そして将来の軍縮への努力の両方にもたらす帰結について、米政府へ熟考を求めた。

INF全廃条約は、射程範囲500~5500キロの核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の短距離および中距離ミサイルを廃棄するよう定めている。

同条約は冷戦終結間際の1987年に調印された。冷戦は米国とソ連の間で、1945年から1989年の間にあった対立構造。国際社会はこの間、強い緊張関係に置かれ、核紛争の脅威が影を落とした。

米国とロシア(旧ソ連を含む)は過去50年間、両国が所有する大量の核軍備を制限・縮小するため、様々な共同条約に調印してきた。

ミハイル・ゴルバチョフ氏とは

  • ソビエト連邦最後の書記長
  • 1985年に書記長就任。進めた国内体制の改革と核軍縮条約締結は、冷戦終結を導いた
  • ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国(ロシア共和国)がソ連からの独立を宣言し、ソ連が崩壊。これを受けて1991年、ソ連大統領を辞任した

トランプ氏の具体的な発言

トランプ氏は20日、ネバダ州で開いた支援者集会の後、「自分たちができないのにロシアは好きに兵器ができる」のを米国は容認しないと述べ、INF全廃条約について「どうして(バラク・)オバマ大統領が交渉や離脱をしなかったのか分からない」などと批判した。

オバマ前米大統領は2014年、ロシアが地上発射型巡航ミサイルの発射実験を行った際、INF全廃条約違反だと抗議した。オバマ氏は当時、条約離脱は軍拡競争再開につながると欧州各国首脳から圧力を受け、条約に留まったと言われている。

ロシアの反応

ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は21日、「これは間違いなく危険な一歩になる。国際社会に理解されないだけでなく、激しい非難も引き起こすだろう」と述べた。

リャブコフ次官はロシアのタス通信に対し、INF全廃条約が「国際安全保障や核兵器分野の安全保障、戦略的安定性の維持にとって重要」だと話した。

またリャブコフ氏はロシアのRIAノーボスチ通信に対し、米国が「ぎこちなく粗雑な」振る舞いを続け、国際合意から離脱するなら、「軍事的技術を伴うものも含む報復的対応をとる以外の選択肢がなくなる」とも語った。

「ただ、我々はその段階へは至りたくない」と同氏は付け加えた。

ロシアは条約に違反しているのか

米政府は、ロシアが条約に違反し、地上発射型の新型巡航ミサイル「9M729」(北大西洋条約機構の識別コードは「SSC8」)を開発したと主張してきた。ロシアはこれによって、北大西洋条約機構(NATO)加盟国をごく短時間で核攻撃できるようになる。

ロシア側は、ミサイル開発は条約違反に当たらないと主張するほかは、新型ミサイルについてほとんど言及していない。

ロシアは通常軍備開発よりこうした巡航ミサイル開発の方が割安だと考えていると、専門家は見ている。

19日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、西太平洋における中国の軍事的プレゼンス拡大に対抗する手段として、米政府がINF全廃条約からの離脱を検討していると伝えていた。中国は同条約の締約国ではないため、中距離ミサイルを自由に開発することができる。

米政府が主要軍縮条約から離脱するのは、2002年以来となる。この年、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領が、核弾道ミサイルの迎撃兵器を禁止する対弾道ミサイル(ABM)条約を失効させた。

欧州にミサイル防衛を配備しようとするブッシュ政権の動きはロシア政府を警戒させたが、オバマ政権は2009年、この計画を廃棄した。計画は2016年、修正防衛システムに置き換えられた。

中距離核全廃条約とは

  • 米国とソ連により1987年に調印された、核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の短距離および中距離ミサイルを全て禁止する軍縮条約。海上発射型の兵器は含まれなかった
  • 米国は当時、ソビエトによるSS-20ミサイルシステム配備を懸念。対抗して欧州にクルーズミサイルとパーシングミサイルを配備し、広く抗議行動が起きた
  • 1991年までに、ミサイル2700発近くが廃棄された。米ソ両国は軍事施設の相互調査を許されていた
  • 2007年、ロシアのプーチン大統領が、INF全廃条約はもはやロシアの国益のためにならないと宣言。米国も2002年、ABM条約を離脱している

<解説> 大きな後退――ジョナサン・マーカスBBC防衛外交担当編集委員

ロシアがINF条約違反のミサイル開発と配備を進めていることへの懸念は、トランプ政権以前からあった。しかし、実際に合意を離脱するという大統領の決定は、軍縮努力にとって大きな後退となる。

離脱ではなく、ロシアに条約履行をあらめて求める交渉を続けるべきだと、多くの専門家が考えている。冷戦中の軍事競争を抑制するために複数の条約で整えられた軍縮体系そのものが、ばらばらになりつつあり、米政府のINF条約離脱はその一部だと、懸念が高まっている。

トランプ大統領の決定の裏には、ほかの要素もある。これは米ソ(後にロシアが継承)二国間の条約だった。他方で中国は自由に、中距離核ミサイルを開発し配備することができた。中国との軍事競争において米国がINF条約に留まれば、中国に対して日に日に不利な状況に追い込まれるという考えが、トランプ政権内にはある。


(英語記事 Russia nuclear treaty: Gorbachev warns Trump plan will undermine disarmament