
2018年10月24日 12:18 公開
メアリー=アン・ラッソン、BBCニュース・ビジネス記者
ようこそ、Kビューティーの世界へ。
ファッションを気にする人々は何千年もの間、適切に見えるメイクを求め、目まぐるしいトレンドを追いかけている。そして今、世界の美容業界は韓国による革命の真っ只中だ。
欧米諸国の若者は、韓国発の音楽Kポップや韓国ドラマに夢中だ。
男性アイドルグループ「防弾少年団(BTS)」のメンバーも含め、多くの韓国の著名人やポップスターはその目を引くファッションで知られている。
しかし、これはエンターテインメント業界だけの話ではない。ここ1年半ほどで、西側諸国で韓国の美容品の人気が高まっている。
小売業界の調査会社ミンテルによると、2017年の韓国美容業界の規模は130億ドル(約1兆4600億円)に上った。
ファッション誌マリー・クレールのデジタル美容編集長を務めるケイティー・トーマス氏は、韓国の化粧品の魅力はその革新性にあると説明する。
韓国の美容業界は概して世界から10~12年進んでいるという。
「ただ大きなブームになっているだけではなく、インスタグラムや美容ブログの拡大によって、私たちが韓国に追いついたんです」
「まずはスキンケア」
韓国人はメイクをする以前に、肌の手入れに大きく力を入れている。
「若い頃からの肌の手入れは、韓国文化に深く根付いていること」とトーマス氏は語った。韓国人の気質として、見せたくないしみなどをファンデーションなどで隠すより、肌の状態が良いことが大事なのだという。
英国では一般的に、化粧をする前には洗顔料と化粧水、そして保湿の3段階を踏むことが多い。しかし韓国のスキンケアは7~12段階ほどあり、肌に優しい天然成分で保湿することが大事とされる。
「人によってはやりすぎと感じるかもしれませんが、実際のところ、これらのすばらしい成分で肌に栄養を与えているんです。英国とは全く違います」
トーマス氏によると、韓国では多くの競合ブランドがあるため、新製品の研究がどの国よりも多く行われているという。
「韓国の美容業界は、西側諸国では考えもつかなかったような新しくユニークな成分を導入することにためらいがありません」と、カレン・ホン氏は説明する。ホン氏はファストファッションブランド、トップショップのロンドンの旗艦店で、韓国コスメのスタンド「Kビューティー・バー」を立ち上げた。
ユニークな成分とは……?
「保湿にはカタツムリの粘膜を、美白には真珠を、肌の油分コントロールには緑茶を、赤味の沈静や栄養補給には蜂のプロポリスを」と、ホン氏は並べ立てた。
ソーシャルメディアでの成功
ある調査では、米国の10~17歳の少女の13%が韓国コスメを試してみたいと答え、18~22歳の女性の18%が実際に使っていると解答した。
ミンテルで美容製品のアナリストを務めるアンドリュー・マクドゥーガル氏は韓国コスメの人気について、ソーシャルメディア上での「賢いデジタルマーケティング戦略」が欧米の美容インフルエンサーやブロガー、ジャーナリストの興味を引いたことが奏功したと分析している。
消費者の関心は、韓国コスメのカラフルなパッケージや、インスタグラムやYouTubeでの紹介、レビューなどに向いているという。
「Kビューティーが人気を得る過程にはまず、たくさんの情報を仕入れている消費者と、韓国コスメを付けたインフルエンサーたちがいました」
これにはマリー・クレールのトーマス氏も賛成だ。
「Kポップの楽しく、アニメのようなアプローチも、韓国の美容業界の一部です。しかしそれが成功しています。楽しく、洗面所の棚に置いて写真が撮れるようなパッケージを求めて消費者は製品を買うのです」
英国では、一部の韓国コスメはトップショップやTKマックスといった店舗で買えるが、それ以外はオンラインで購入するしか方法がない。
香港を拠点とするオンライン販売会社「YesStyle.com」がそのひとつだ。同社は韓国コスメが大きなビジネスになるとみている。
同社のウェブサイトでは150種類以上の韓国コスメブランドを取り扱っており、2018年の韓国製品の売上高が2500万ドル(約28億円)に達すると見込んでいる。
創業者のジョシュア・ラウ氏は、西側の消費者に新製品を試す勇気を与えるために、認証を受けた購入者によるレビューを載せたことが成功の鍵だったと説明した。
YesStyleのローミー・ローズ・レイズ美容編集長は、欧米の消費者は「チョクチョク」メイクに興味をそそられているという。チョクチョクとは韓国語でしっとりを意味し、「ぷるぷるでもちもちで、ツヤのある肌」を目指す、ノーメイクのように見えるメイクのことだ。
レイズ氏とホン氏によると、「ナチュラル」で「若く」見えるメイクが流行り出している一方、欧米市場で好かれていたマットなメイクはいまや流行遅れになっている。
そのため、Kビューティーでは以下のようなアイテムが重宝されている。
- リップティントを使って唇にグラデーションを作る
- 軽いファンデーション:「クッション」ファンデーション、BBクリーム、CCクリームなど
- さまざまな肌の問題を治す「シート」状のマスク
欧米コスメにもKビューティーの影響
欧米の化粧品メーカーも、このトレンドには気付いている。
トーマス氏は、「一部の欧米の化粧品ブランドが、自社製品に韓国のスキンケア手法を取り入れています」と指摘した。
「たとえば、イヴ・サン・ローランはクッション・ファンデーションとクッションチークを発売しました。知っているブランドでKビューティーに触れれば、消費者も不安が少ないでしょう」
今年の夏には、ファストファッションブランドのプライマーク(アイルランド)が、「K-POP」という化粧品シリーズを発売したが、すぐに売り切れた。
プライマークはBBCの取材に、韓国発のスキンケアに関する「大きなトレンド」に着想を得たと説明し、シートマスクの販売は続けると話した。
同社の広報担当者は、「このシリーズはより若い、本格的なスキンケアが必要ない消費者に刺さることが分かった」と話した。
では、Kビューティーは一時的なブームなのか? それとも長く続いていくのか?
トーマス氏は、若い世代は環境問題に関心を持っており、人間だけでなく動植物への影響も考えているため、Kビューティーの人気は定着するだろうと話した。
「人々は自分の肌で起きていることに注意を払うようになっています。そして、知らずに我々の肌から吸収されている汚染物質が沢山あります」
男性のメイクブームは?
これまでの話の大半は女性に当てはまるものだが、韓国では男性の美容品も大きなビジネスとなっている。
Kビューティーの波は欧米の男性にも訪れるのだろうか?
Kビューティー・バーのホン氏は、「韓国の男性はスキンケアと化粧について、欧米とは違う意見を持っています。特に若い世代は、気分が上がり格好良く見えるなら、自分を表現することを怖れていません。しかしこのトレンドはまだ、一般的な欧米の男性までは行き着いていません」と説明した。
ミンテルのマクドゥーガル氏も賛同する。
「欧米の男性も、美容やパーソナルケア分野で活発な消費者となりつつありますが、(韓国に)追いつくには長い道のりです」
マクドゥーガル氏は例として、シャネルが最近発表した男性向けの化粧品ライン「Boy de Chanel(ボーイ・ドゥ・シャネル)」を挙げた。シャネルはこのラインを祖国フランスではなく、韓国で最初に立ち上げている。