保坂展人(東京都世田谷区長)

 「ふるさと納税」は、税源流出に悩む世田谷区にとって、頭の痛い問題です。

 2017年には、世田谷区民約5万7千人から合計109億円のふるさと納税がありました。2018年度の税収減の影響は41億円です。税収減の影響は、2015年度が2億6千万円でしたが、2016年度には16億5千万円と急増し、2017年度は31億円と倍増してきました。このままでは、税収減が50億円を突破する可能性もあります。

 とはいえ世田谷区は、ふるさと納税の制度そのものに反対しているわけではありません。制度が生まれたときに語られた「世話になったふるさとを応援する」ことや、自然災害などで大きな痛手を受けた自治体を支援すること、さらには納税者が納税額の一部を寄付として社会的事業やプログラムをサポートすることは、価値あることで、本来の趣旨だと考えています。

 ただし、現在の「返礼品競争」の多くは、寄付文化を逸脱してはいないでしょうか。ふるさと納税にも、本来の趣旨を踏まえた税制としての「限度」や「節度」があってしかるべきだと主張しているのです。

 「世田谷区は、返礼品のクオリティーをあげて勝負に出るべきだ。早く返礼品競争に参戦して、税源を取り戻さないのは区長の怠慢だ」というご批判も数年前からいただいています。

 仮に、世田谷区内の店舗などで扱っている高額の希少品などを「返礼品」としてそろえ、早い時期に勝負に出ていたら、全国の高額所得者から多額のふるさと納税を集めることも可能だったかもしれません。もし、そうした手段に出ていたら全国の市町村から財源を奪う結果となります。数年前から、世田谷区では「返礼品競争には加わらない」という自制を方針としてきました。

 実は、世田谷区は平成28年に策定した「総合戦略」において、全国の地方都市との交流・連携を深めることで双方とも健全に発展することを目指すことを基本方針に掲げています。全国の市町村があってこそ大都市部の生活が支えられていますし、いつ起きるかわからない災害に対しても都市は脆弱(ぜいじゃく)です。相互交流、相互扶助を活発に展開しています。

 毎年夏には、全国40市町村の交流自治体の特産品を販売する「ふるさと物産展」を区民まつりの人気コーナーとして運営しています。全国の市町村長との連携を深める世田谷区主催の「自治体間連携フォーラム」も、群馬県川場村、長野県豊丘村、新潟県十日町市と場所を変えながら、開催してきました。全国の市町村が人口減少に悩み、若者を呼び戻そうと努力している声を、それぞれの首長からじかに聞いています。
東京都世田谷区の保坂展人区長
東京都世田谷区の保坂展人区長
 ふるさと納税は、都市部から地方の市町村に税源が流出するだけでなく、「返礼品」によっては地方の市町村から都市部への「逆流」もあります。また、返礼品競争が過熱してくると、早い時期に手がけた「勝ち組」と、取り組みが遅れた市町村との差も激しくなってきました。

 それだけに、「豪華返礼品」によって厳しい財政状況の市町村から、大都市部の自治体が財源を奪うような対処策は、自ら禁じ手としてきました。節度と抑制が必要だと考えてきたのです。