2018年10月29日 11:27 公開

米ペンシルベニア州ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で27日朝、男が銃を乱射し、11人が死亡した。警官4人を含む6人が負傷した。捜査当局は拘束した白人の男、ロバート・バワーズ容疑者(46)を殺人など29件の容疑で逮捕。容疑者は拘束時、ユダヤ人排斥の罵倒を繰り返していたという。近年の米国でユダヤ人に対する最悪の事件となった。

容疑者はグロック製の拳銃3丁と、半自動小銃「AR15」1丁を持ち、シナゴーグを襲った。AP通信によると、いずれの銃も合法的に所持していたという。

午前9時54分ごろに発砲事件発生の通報があり、急行した警官たちが到着すると、シナゴーグから逃げようとしていた容疑者を発見した。容疑者は警官隊に発砲し、礼拝所の上の階に走った。特殊部隊の警官たちが被害者を捜索する間、容疑者の銃撃で警官2人が負傷した。さらに続く銃撃戦で容疑者は負傷し、拘束された。

警察によると容疑者は、ユダヤ人を大量に殺害したいという願望のほか、民族虐殺に関する発言を重ねたという。

バワーズ容疑者についてはまだ多くが明らかになっていないが、ソーシャルメディアでは反ユダヤ人的発言を繰り返していた。

隣に住む男性はAP通信に、「何が一番恐ろしいかって、あまりに普通の人の見えたことだ」と話した。

捜査当局によると、共犯がいた様子はない。

連邦捜査局(FBI)の捜査員は記者会見で、容疑者はこれまで捜査当局に認識されていた人物ではないと話した。

ペンシルベニア州西部地区の連邦検察事務所によると、29件の訴追容疑の内容は次の通り――。

  • 信仰活動を阻害し死に至らせた疑い11件および暴力犯罪に関して殺害を意図した銃器の使用11件。この量刑には死刑もあり得る
  • 公共の安全担当官の負傷につながる信仰活動の阻害4件
  • 暴力犯罪に関する銃器の使用と発砲3件

銃撃事件の避難訓練

「生命の木」シナゴーグでは事件当時、3つのグループが集まっていたという。

台所にいたリチャード・ゴットフリードさん(65)とダニエル・スタインさん(71)は殺害された。集会のスティーブン・コーエン副代表は米紙ニューヨーク・タイムズに、「隠れる場所がなかった」と話した。

ユダヤ教指導者のジョナサン・パールマン師は他の2人を倉庫に誘導して隠れさせたが、その内の1人、メルビン・ワックスさん(88)はドアを開けた際に撃たれて死亡した。

コーエンさんは「パールマン師以外はみんな固まってしまっていた」と話した。集会の幹部たちは銃撃事件の避難訓練を受けていたため、「助かった人たちを究極的に助けたのはその経験だったと思う」と話した。

シナゴーグにいたジョーセフ・チャーニーさん(90)は、入り口に男の姿が見えて銃声を聞いたと米紙ワシントン・ポストに話した。「見上げたら、死体だらけだった」と述べ、自分は他の2人と上階の倉庫に隠れて難を逃れたと話した。

犠牲者の名前は28日に公表された。他に、ジョイス・ファインバーグさん(75)、ローズ・マリンジャーさん(97)、ジェリー・ラビノウィッツさん(66)、兄弟のセシル・ローゼンソールさん(59)とデイビッド・ローゼンソールさん(54)、夫婦のバーニース・サイモンさん(84)とシルバン・サイモンさん(86)、アービング・ヤンガーさん(69)の死亡が確認された。

ソーシャルメディアに相次ぐヘイト投稿

容疑者はソーシャルメディア「Gab」に頻繁に反ユダヤ人的内容を書き込んでいた。事件当日には、ユダヤ系の難民支援団体「HIAS」を激しく非難し、「自分の同胞が殺戮(さつりく)されるのをただ見ているわけにはいかない」、「つっこむぞ」などと書いていた。

事件以前には、ユダヤ人社会だけでなくドナルド・トランプ米大統領と「アメリカをまた偉大に(MAGA)」スローガンを非難。トランプ氏が最近「自分はナショナリスト(国家主義者だ)」と発言したことについて、「トランプはグローバリストだ、ナショナリストじゃない」と反発していた。

別の投稿では、「はっきり言っておくが、自分は(トランプ氏に)投票していないし、MAGA帽子を持っていたこともかぶったことも、触ったことさえない」と書いていた。

さらには、極右の「QAnon陰謀論」(トランプ氏が有名な児童虐待者の捜査・逮捕を秘密裏に計画しているという根拠のないうわさ)についても支持をあらわにしていた。

Gabは2016年8月、ツイッターの代わりになるソーシャルメディアとして始まった。創設者アンドリュー・トーバ氏は、「ツイッターの左派系独占」への対抗手段だと表明したことがあり、主流ソーシャルメディアにアカウントを削除されるなど使用が禁止された過激ユーザーがヘイトスピーチなどを自由に書き込む場になっていると非難されている。一方で、トーバ氏はGabは特定の政治団体のための場ではないと主張。

Gabはシナゴーグ銃撃事件を受けて、「我々はあらゆるテロと暴力行為をきっぱり否定し、非難する。常にそうしてきた」と表明した。

トランプ大統領の反応は

ドナルド・トランプ米大統領は、銃撃犯を「狂人」と呼び、「死刑の法律を強化」すべきだと述べた。

「こういう連中は究極の代償を払うべきだ。こういうのはもう終わりにしなくては」とトランプ氏は強調した。

大統領は近くピッツバーグを訪れると明らかにした。31日までホワイトハウスを初め連邦政府庁舎の国旗を半旗にするよう命じた。

銃規制については、米国の銃関連法と今回の事件は「ほとんど関係がない」と述べ、むしろ「建物の中に護衛がいたら、状況は違っていたかもしれない」と、乱射事件には武装強化で対抗すべきという従来の主張を繰り返した。

一方で、ピッツバーグ市のマーク・ペドゥート市長(民主党)は反対意見で、「米国のあらゆる乱射事件の共通項となっている銃を、憎しみを殺人という形で表現しようとする人間の手から取り上げるにはどうすべきか、これを検討する必要がある」と述べた。

(英語記事 Survivors relive US synagogue ordeal