所得税は、経済が過熱すれば税収が伸びることで経済を沈静化させ、経済が停滞しているときは経済を回復させる効果を持つ。これは、所得税収が経済の順調な成長と一致していることを意味している。実際に、80年代終わりまでの所得税収はそのように進展していた。ところが、図表を見ても、所得税収は90年代に入ると、急転直下で減少トレンドを描き出す。消費税の「安定」とは真逆である。
 経済全体の安定を犠牲にして、消費増税の「安定」だけを自己目的化にし、またそれが「安定」していれば、「財政再建」は成し遂げられるという妄信は、狂信でしかない。恐ろしいことだが、この支持者は非常に多い。

 経団連の中西宏明会長もその一人だ。中西氏は最近、歴代の経団連会長がパソコンでメールを活用していなかった事実を公にするという「貢献」で話題になった。経団連はよく「生産性」と大声を上げるが、自分たちのビジネススキルがお粗末だったことが、明るみに出たわけである。それはそれとして、中西氏は次のような発言をしている。

「まずは消費税率を10%へと引き上げることが最優先課題である。日本社会は5%から8%に引き上げたときの景気の落ち込みがトラウマ(心的外傷)となっている。同じような事態を招かないよう、経済対策を実施することに反対ではない。他方、消費増税は財政健全化に資するものでなければならない」

 経営者が自分の会社の財政再建を優先するのは理解できるが、なぜ自分の顧客である消費者の懐具合を悪化させてまで、「消費増税が最優先」になるのだろうか。全く理解に苦しむが、この発言の答えは、実は先ほどの「パソコンでメールを出さなかった歴代経団連会長」のエピソードの中に表れている。

 つまり、メールさえも活用できない旧態然とした経団連の体質にある。単なる大企業の既得権を死守するだけの、まさに存在すること自体が目的化している、官僚的な大組織だといっていいだろう。

 そこには日本経済のイノベーション(技術革新)を牽引(けんいん)するよりも、むしろ大企業の既得権を死守しつつ、新しい芽には無理解で、むしろ抑圧する動きが顕在化していると考えていいだろう。なぜなら、消費増税によってデフレ経済に戻ったほうが、大企業は安泰だからだ。

 大企業のライバルとなるような新興企業や意欲的な中小企業がいなくなれば、経団連的には大助かりだろう。それを「財政再建」という聞き心地のいいフレーズで、政府が責任をもって実行してくれるのだからたまらない。

 アベノミクス以前は、20年にわたるデフレを伴った大停滞だった。このとき、企業の倒産件数の方が、新規企業の立ち上げ件数よりもはるかに多かった。
2018年10月、記者会見する経団連の中西宏明会長
2018年10月、記者会見する経団連の中西宏明会長
 要するに、新しいイノベーションは生まれなかったのだ。このデフレ経済の持つ「イノベーション殺し」は、既得権を有する大企業に有利だった。今も経団連に所属する多くの大企業経営者たちは、このデフレ期をうまみがある期間として実感していることは疑いない。

 そう感じていないのであれば、今、経営者たちがやるべきことは、消費者たちがお金を使いやすく、またそれによって経済を活性化させ、税収も安定化することを求めること以外にはない。だが、経団連からは増税の声しか聞こえない。まさにメールも使えない経営者だけが生き残り、国民が滅ぶのである。