さらに、その間に就労が可能であれば社会活動に伴う税収増にも寄与しうる。安倍政権は、予防医療による健康長寿と高齢者雇用の拡大を社会保障改革の柱としている。予防医療の推進は医療費削減ではなく、健康長寿とそれによる社会生産性向上を目的として議論すべきである。

 この問題で思い出されるのは2016年のフリーアナウンサー、長谷川豊氏による「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」というブログ記事である。本件に対してはあっという間に批判が殺到し、人工透析患者の偏見につながるとして全国腎臓病協議会も抗議文を出すに至り、結果として長谷川氏は当時の全ての番組を降板することになった。

 結論から言うと、病気に自己責任論を持ち込むのは無理がある。なぜなら、危険を伴う地域への渡航と異なり、自ら進んで病気なる人は誰もいない。そして、生活習慣の努力の程度は、線引きが事実上不可能だからである。病気は複合的な要因で生じるため、遺伝や社会環境など個人ではどうしようもない部分があり、自助努力だけで防ぐことはできない。

 一方で、過度の飲酒や喫煙、運動不足で自堕落な生活をしていても病気にならない人もいる。病気に対する自己責任論を突き詰めると、国民皆保険制度の崩壊につながってしまう。その先の未来がどうなるかはアメリカの医療をみれば明らかであろう。

 予防医療の目的を純粋に健康長寿とした場合、健康意識や健(検)診受診率の向上を目指すにはどうしたらよいのであろうか。

「2020年以降の経済財政構想小委員会」のまとめを発表する自民党の小泉進次郎氏=2016年10月、東京・永田町の自民党本部(斎藤良雄撮影)
「2020年以降の経済財政構想小委員会」のまとめを
発表する自民党の小泉進次郎氏=2016年10月、
東京・永田町の自民党本部(斎藤良雄撮影)
 一つが健康状態のいい人や健康管理に努力している人を優遇するというやり方である。民間保険ではリスク細分型保険というカテゴリーの商品がすでに定着している。非喫煙者を対象としたノンスモーカー割引は、ニコチンを検出する唾液検査をクリアすることが条件で、保険を契約する際に通常の保険料の10~30%の割引を受けることができる。

 第一生命は健康診断割引特約として健康診断書などを提出するだけで保険料を割引し、体格指数(BMI)18以上27以下、血圧が最低85mmHg未満かつ最高130mmHg未満、40歳以上ではHbA1c5・5%以下といった良好な健康状態の人はさらに割引になる商品を開始した。民間保険は加入が任意なので、このような方法でなんら問題はないが、公的保険に関してはかつて議論が巻き起こった。

 小泉進次郎衆議院議員らが2016年10月に雇用や社会保障に関する政策提言の中に取り入れた「健康ゴールド免許」制度である。この制度はIT技術を活用することで、個人ごとに健(検)診履歴などを把握し、健康管理に取り組んできた人へ「健康ゴールド免許」を付与し、病気になったときの自己負担割合を3割から2割に減免するというもの。しかし、発表直後から賛否が巻き起こり、否定派からは「きれいな長谷川豊」と言われ、その後すっかり話題に上らなくなってしまった。