将来起こり得る病気やけがに対しては、各人が民間の保険会社と契約して備えをする。これが普通の考え方であり、日本のような国民皆保険制度を積極的に導入することに賛成の米国人はあまりいない。

 まさに「天は自ら助く者を助く」であって、麻生氏が言うように、「なぜ不摂生して病気になった者の面倒などみる必要があるのか」というわけである。もちろん、格差の拡大とともに、保険料の支払いもできない貧困層が拡大しており、彼らをどう救うかという問題は大きな政治問題となっている。

 米国では、慈善事業(チャリティー)や寄付の文化が定着しているが、公的な救済制度がなくても、それが大きな貢献をしていることを忘れてはならない。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が典型的だが、成功して大富豪となった者は、寄付という形で利益を社会に還元する。米国の企業家、富裕層の友人たちと話をすると、必ず慈善事業をどうするかというテーマが出てくる。

 例えば、米国の私学は授業料が高い。それでも、成績優秀で品行方正であれば、卒業生で成功した先輩たちが奨学金制度を作り、毎年多額の寄付をしているので、学生はその恩恵にあずかることができる。

 欧州では少し事情が違う。移民が形成した「新興国アメリカ」と違って、伝統社会である。社会主義といえば、マルクスやレーニンの名が浮かぶかもしれないが、元祖社会主義は、サン・シモンに代表されるようにフランスである。そのフランス社会主義の理念とは、医療や教育の分野が貧富の格差に影響されてはならないというものである。

 他の欧州諸国もほぼ同様であり、ドイツのビスマルクは、19世紀後半に全国民強制加入の社会保険制度を作り上げている。最近は極右の台頭で凋落(ちょうらく)したが、長い間、欧州では社会民主党が政権を担ってきたことを忘れてはならない。

ドイツの「鉄血宰相」ビルマルク(ゲッティイメージズ)
 日本は米国型ではなく、欧州型である。国民皆保険や国民皆年金を廃止し、米国のように、個人で民間の保険会社と契約することに賛成する日本人はほとんどいないと思う。しかし、医療費の無駄遣いについては、厳しく点検し、制度の不断の見直しが不可欠である。

 昨年度の医療費は42・2兆円にも上っている。国の予算が約100兆円なので、その額の大きさがよく分かる。別の比較をすれば、トランプ大統領が怒っている米国の対中貿易赤字も同額である。