9月の南北首脳会談には、韓国カトリック教会の金喜中(キム・ヒジュン)大主教が同行し、「ローマ法王庁に南北和解と平和を伝える」と金委員長に述べた。だが、カトリック教会の大幹部なら、北朝鮮に人権弾圧と政治犯収容所の解放を求めるべきだろう。宗教活動の自由も要求してほしかった。北朝鮮では、聖書の所持は逮捕され、布教も禁止されているからだ。

 北朝鮮では、多くのキリスト教指導者と信徒が処刑された。また、朝鮮戦争の際には、韓国のキリスト教指導者が北朝鮮軍に虐殺された。その責任追及と被害者への関心を、韓国のキリスト教会は忘れている。なぜか。

 ところが、北朝鮮に同情する韓国のカトリック神父が少なくない。かつて当局に追われた左翼の学生や活動家の多くが「隠れみの」としてカトリック教会に入信し神父になった。

 文大統領は、10月下旬にベルギーで行われたアジア欧州会議(ASEM)の席上、英仏首脳に「対北経済制裁の緩和」を呼びかけた。これはイギリスとフランスが国連安全保障委員会の常任理事国で、「国連制裁」緩和の権限を握っているからだ。北朝鮮は23日に中国とロシアを通じて、「対北朝鮮制裁緩和」の動議を安保理に提出したが、文大統領はこの動きを知り、協力したわけである。

 こうした一連の動きは、文大統領が北朝鮮と連携している事実を確認させることになり、日米は不信感を深めた。これでは、文在寅外交が「金正恩のパシリ」と批判されてもしかたがない。

 文大統領の「努力」にもかかわらず、ASEM議長声明では北朝鮮に「完全非核化」を求めた。また、英仏独の首脳は文大統領の要請に応じず、安倍首相の求めに応じ「対北国連制裁維持強化」を表明したのだった。この事態に、韓国の新聞も「文在寅外交失敗」と報じた。
2018年9月、平壌での南北首脳会談を前にソウル中心部に展示された、4月の会談で抱き合う韓国の文在寅大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の写真(共同)
2018年9月、平壌での南北首脳会談を前にソウル中心部に展示された、4月の会談で抱き合う韓国の文在寅大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の写真(共同)
 文大統領は、なぜ「北朝鮮の代理人」にこだわるのか。支持率が低下し、大統領の求心力を失っているからだ。

 憲法改正が実現しなければ、大統領任期は2022年で終わる。次の大統領を狙う与党の政治家たちにとって、文大統領再選への道を完全に断つには、現憲法の規定に従い、任期を終える方がいい。たとえ憲法改正しても、万が一にも再選の可能性を残したくない。それには次期大統領選直前に憲法改正し、文大統領には適用されない方が安全だ。

 権力者は、自分が退任する時期を明らかにすると、死に体になる。この教訓を文大統領は実感していなかったようだ。

 与党内では、すでに次期大統領候補を巡る思惑と駆け引きが展開されている。ローマ法王訪朝と国連制裁緩和により「金正恩ソウル訪問」を実現し、憲法改正が実現すれば「統一が近いから、大統領を変えるべきでない」と世論を操作でき、大統領再選も可能になる。文大統領の野望と「パシリ」が、北朝鮮の非核化と経済制裁の足並みを乱しているのである。