ネットスラングとしてよく用いられる「厨」という言葉は、まるで中学生のような大人げない言動をする人を指す「中坊」の誤変換「厨房」がそのまま使われ、さらに略され広まったものだ。「○○厨」と呼ばれる場合は、馬鹿にした意味が含まれる。そのバリエーションのひとつ「不謹慎厨(ふきんしんちゅう)」とその対策について、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が解説する。

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 SNSが普及して以来、地震を含めた災害が発生した場合に「不謹慎厨」がネットに発生するのは見慣れた風景となったが、6月18日に発生した大阪北部地震では別ステージに昇華した。不謹慎厨の意味はネットの百科事典「ニコニコ大百科」には「なんらかの悲劇が起きた時、全くの無関係のものまで道徳や被害者感情を害するとすると非難し、自粛を求める人」とある。

 2011年の東日本大震災の時は、猫の画像をツイッターにアップしたり、仲間と楽しそうにやっている状況や、イベントが楽しみだなどとツイートするだけで不謹慎厨からの総攻撃を食らった。2016年の熊本地震の際は、長澤まさみが笑顔写真をインスタグラムにアップしたら被災者感情を考えろ、不謹慎だ、と叩かれた。ベッキーとの不倫騒動直後の長崎出身・川谷絵音は、家族が無事だったことをツイートしたら「お前は熊本じゃねぇだろ! 被災者ぶるな」と非難が殺到した。

 東日本大震災の時、あまりの「不謹慎厨」跳梁跋扈に対抗すべく、ジャーナリストの佐々木俊尚氏はあえて高級イタリアンで高級ワインを飲みに行くことをツイート。実際に店内の写真も公開し、さらに「不謹慎ディナー宣言!」とも一言だけツイートした。すると、「物凄い非難の嵐が不謹慎ディナー宣言に」という状態に。挙句の果てには古い友人まで非難をしてきたため、同氏はその人物との友人関係を終了宣言した。

 とにかく地震が発生すると、ピースサインや高級寿司は不謹慎の象徴的存在として忌み嫌われ、そのツイートをした人間を叩く根拠として特別な意味合いを持つこととなる。今回の大阪北部地震では、不謹慎厨の勢いは東日本・熊本の頃と比べれば強くはない。しかしながらどうにもイヤ~な作法も定着してしまった。何かをツイートするにあたり、「こんな中、不謹慎かもですけど」や「不謹慎だと言われるかな……」と前置きをしてからツイートをするのがマナーになったのだ。

 何らかの議論をする時、相手を批判する場合は前置きをする話法があるが、それに似ている。「こんなことを言うと非常識かと思われるかもしれませんが……」「この問題に苦しんでいる人がいるのは理解してますが……」「とても失礼な言い方になるかもしれませんが……」などは日常的にもよく聞かれる。自分が非常識で冷徹で失礼な人間だと理解していると予め宣言しておくことにより、批判をすることが許されると考える「予防線話法」である。

「こんな中、不謹慎かもですけど」的な前置きも今回続出しているが、同様の予防線話法としてSNSでは定着したのかもしれない。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 そんな状況下、芸能人のブログやSNSの世界においても“不謹慎厨対策”は定着した感がある。過去の芸能人炎上騒動の教訓から、各人がよく学んだ。現在のトレンドは「すぐに被災地への心配と配慮の言葉をつづる」「写真は掲載しない」「宣伝材料があるにしても『こんな時に恐縮ですが…』と書く」の3点。

 後は誰かが能天気なことを解禁するのを息を潜めながら待ち、普段通りの更新に戻るタイミングを見計らうのだ。実にくだらん作法だ。

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。

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