つまり、批判的言説の蓄積はまさにごくごく一部の利用者によって形成されているのである。現実的ではないにしろ、炎上参加経験者をIPアドレス等のIDで排除することができれば、おそらく高い確率で上述したような「有名人の炎上」は起こりにくくなるだろう。

 多くのSNS利用者は、日常で抱えるさまざまな負の感情を、炎上という形に転化させることなく日々生活している。しかしながら、一部の者ではあるものの、「社会正義の戦士」化し、SNSが本来の使い方ではないコミュニケーションに利用されてしまう現状を踏まえると、「どうしたらそうならないか?」という予防法を考える意義がある。ここに心理学をベースにしつつ、三つのコツを提案したい。

 一つ目は「自分の批判的・攻撃的コメントに対して、相手の立場で反論してみる」ことである。

 特に、生活の文脈を完全には把握することができないSNSでは、他人と意見が違ったり、自分の価値観とは違う言動を目にした時に、自分が正しくて、相手が間違っている、と感じる傾向が強いと言われている。極端に言えば、自分は「聖人」、相手は「愚人」と錯覚しやすいのである。

 これには人間の本質的な自己防衛や自己肯定の欲求が反映されているわけだが、その傾向が強くなりすぎると、人としての正義があたかも一つかのように感じられてしまう。

 「〜してはいけない」「〜ねばならない」に毒されている今の日本の風潮にも影響されてはいるが、本来多様な正義や価値観、ルールがあることを、あえて相手になりきってみて反論することで改めて自覚できる能力が私たちには備わっている。

 心理療法の一つの技法に、エンプティー・チェア(空の椅子)といって、現実には眼前にいない実在の相手が目の前の椅子に座っていると仮定して、座り位置を交換しながら自分や相手の気持ちを深く掘り下げていくという方法がある。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 具体的な思考を通じて相手の立場になれたとき、なぜ自分が怒りや不満を抱えていたのかを考え直したり、相手に向けられた批判や怒りが、実は自分自身の欲求や自我の投影であることに気がつくのではないだろうか。