ロンドンを拠点とする中東ニュースウェブメディア「ミドルイースト・アイ」の10月29日のリポートによると、サウジの空爆が始まった2015年3月から今年末までの予想犠牲者(武力攻撃によるもの。食料・医薬品不足など人道問題での死亡は含まない)は7~8万人で、その最大の犠牲者が、サウジ主導の無差別空爆による民間人の殺戮という。

 しかも、その殺戮のペースは2015年に比べて、2016年以降に急激に上がっている。2016年1月から2018年10月までの数字だけ見ても、5万6000人以上の犠牲者がカウントされているが、これは紛争初年に比べて5倍以上のペースとなる。

 この殺戮のペースの急増も、原因はサウジ軍の無差別空爆の強化だ。その戦争犯罪度もより悪質になっており、病院、バスなどの交通機関、インフラ施設なども狙われていることが報告されている。

 こうした非道なサウジ軍の無差別空爆を実行している張本人こそ、ムハンマド皇太子である。

 彼は皇太子になる前、2015年1月にアブドラ前国王が死去して、実父のサルマン国王体制が誕生すると同時に、国防相に就任していた。前述したイエメン内戦激化は、ムハンマドの国防相就任とほぼ同時の出来事であり、同年3月のイエメンへの軍事介入を決めたのは、ムハンマドにほかならなかった。

 サウジの過剰なイエメンへの軍事介入は、殺害されたカショギ記者も批判していた。ムハンマド皇太子としては、自分が最初から強引に進めてきた「政策」への批判は、もっとも許せないことだったろう。

 ただし、今回のカショギ記者殺害を機に、欧米主要国もムハンマド皇太子に距離を取り始めた。イエメンでは空爆だけでなく、コレラなどの伝染病のまん延、さらには飢餓まで広く発生しつつあり、地獄のような状況になっている。

 そうしたニュースを欧米の主要メディアも、ショッキングな画像とともに報じており、10月30日には米国のマティス国防長官とポンぺオ国務長官が「30日以内の停戦」を呼びかけるなどの反応をようやく示し始めている。
2018年10月、トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館の入り口付近に設けられた警察のバリケード(ゲッティ=共同)
2018年10月、トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館の入り口付近に設けられた警察のバリケード(ゲッティ=共同)
 サウジの軍事戦略はいまだにムハンマド皇太子の掌中にあるが、非人道的な無差別空爆に対する批判が国際社会で高まった場合、国際社会でのイメージが悪化している彼が、どのような対応をするかが注目される。

 直近のサウジ軍の作戦行動を見ると、10月の空爆回数そのものは9月に比べて半減したが、標的のほとんどが民間施設で、民間人の被害は一向に収まっていない。また、大規模な地上部隊を送り込み、特に航海沿岸の港湾都市ホデイダの制圧に乗り出している。停戦協議の再開も見据えて、いまだ攻撃の手を緩める兆候はない。