産経新聞取材班

 近年、高齢層の投票行動が選挙結果に多大な影響を与えているという意味で、「シルバーデモクラシー」という言葉が使われる。特に日本は、「団塊」と呼ばれるベビーブーム世代であり、その数は圧倒的だ。すでに一線を退いた人が多いものの、今なお社会に厳然たる影響力を持っている世代とも言える。

 『総括せよ! さらば革命的世代-50年前、キャンパスで何があったか』(産経新聞取材班、産経NF文庫)は、そんな彼らの青春時代にメスを入れた一冊だ。

 半世紀前の大学キャンパス。そこには、「革命」を訴える世代がいた。当時それは特別な人間でも特別な考え方でもなかった。にもかかわらず、彼らは、あの時代を積極的に語ろうとはしない。語られるのは中途半端な武勇伝だけであり、「そういう時代だった」「みんなそうだった」と簡単に片付ける人すらいる。

 そして、私たちの「隣人」としてごく普通の生活を送っている。彼らの思想はいつから変わったのか。いや、変わっていないのか。その存在はわが国にどのような功罪を与えたのか。そもそも当時、この国のキャンパスで何が起きたのか?

 本書のもととなる新聞連載は、そんな疑問を持った若手記者たちにより、2008年5月から09年6月にかけて行われた。取材当時、全共闘世代は60歳前後。ちょうど彼らが会社を定年退職するなどして、社会の一線から退こうとしているタイミングだった。最初の書籍化から10年が経過したが、連載の骨格はそのままに、文庫化にあわせて再取材と修正も行っている。

 取材当時は、09年9月に発足した民主党政権の誕生前夜だった。学生時代に自民党政権に激しく抵抗した全共闘世代に、政権交代について尋ねたことが何度かあったが、「政権交代しても権力は権力で変わらない」という冷ややかな声とともに、「昔、おれたちが願っていたような時代がくるかもしれない」と答える人もいた。少なくとも、政権交代前夜の熱気のようなものは感じられた。しかし、民主党政権は多くの国民の期待を裏切ってあっさりと倒れ、現在は自民党の一強多弱と呼ばれる政治状況が続いている。

 一方で、「国家権力への反対運動」はなくなったわけではない。ここ数年だけみても、例えば、特定秘密保護法をめぐって反対運動を行った「SEALDs(シールズ)」と呼ばれる学生グループが注目を集めたことや、学校法人「森友学園」への国有地売却や、学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐる問題での倒閣運動もあった。「アベ政治を許さない」などというプラカードとともに、国会周辺で政権に退陣を迫る〝闘争〟は今も続いている。だが、そこに集う人々をよく見ると、ほとんどが高齢者である。
近年、雑誌などでシルバー民主主義をテーマにした論考が多くなっている
近年、雑誌などでシルバー民主主義をテーマにした論考が多くなっている
 文庫化にあわせ、以前取材した元闘士たちの何人かに連絡をとったが、やはりというべきか、長期政権となった安倍晋三政権を批判し、野党のふがいなさを嘆く人が少なくなかった。本書でも指摘しているように、当時の大学進学率は15%前後。団塊の世代イコール全共闘世代とは言えないし、全共闘世代のその後の人生もひとくくりにはできない。ただ、彼らの世代には今も、根底に心情左派的な意識が広がっているのではないかと感じる。

 それは、若いころに好んで聞いた音楽をいくつになっても聴き続けるような感覚なのかもしれないが、そのようなノスタルジーの中に彼らは今も生き続けているのだろうか。

 60年代後半に学生時代を過ごした「全共闘世代」はリーダー不在の世代ともいわれる。タレントや作家など個性的な才能を発揮している人は多いものの、与党政治家やカリスマ的な経営者は意外に少ない。自民党の総理経験者でいえば、小泉純一郎氏(42年生まれ)から安倍晋三氏(54年生まれ)までの空白の期間にあたる。福田康夫氏は36年、麻生太郎氏は40年生まれで、2人はともに小泉氏より年長だ。