斎藤満(エコノミスト)

 中小企業の中には人手不足のために経営が立ち行かなくなるところも増えていると言います。日銀の調査(「日銀短観」など)をみても、中小企業を中心に企業の人手不足感が高まり、バブル期のピークに迫っています。そして、建設現場や介護施設などでは外国人労働力への依存が高まり、政府も産業界の要請を受けて、外国人労働の受け入れに前向きとなり、法整備も進もうとしています。

 この間、企業の利益は最高益を更新するほど好調で、厚生労働省の調査では、この夏のボーナスは前年比4・7%増と、27年ぶりの高い伸びとなりました。ところが、その割に労働者の賃金はあまり上がらず、春闘賃上げも、いわゆる定期昇給分を除くと0・3%から0・5%の低い伸びにとどまっています。このため、個人消費は低迷を続け、企業の値上げが通りにくく、インフレ率も1%以下の低い状況が続いています。

 これだけ人手不足が言われ、企業収益が好調にもかかわらず、なぜ賃金が増えないのか。人手不足と低賃金の両方をもたらしている意外な原因が「低い労働生産性の伸び」にあると考えられます。
 
 まずは数字を見ていただきましょう。「日本株式会社」の利益総体ともいえる名目国内総生産(GDP)ですが、昨年(2017)度1年間で548・6兆円産み出されました。その年度末にあたる18年3月の就業者数は6694万人でした。つまり、この会社では就業者1人当たり819・5万円を産み出していたことになります。

 同様に、2016年度では6502万人の就業者で539・4兆円のGDPを産出し、1人当たりでは829・6万円を稼ぎ出していました。ちなみに、2010年度は6288万人で499・3兆円を、2005年度では6374万人で525・7兆円を、2000年度では6445万人で528・5兆円を産出していました。1人当たりではそれぞれ794万円、824万円、820万円となります。

 これらの数字の中に、問題の答えが潜んでいます。中でも最も重要な数字は就業者1人当たりの生産額、つまり労働生産性が上がっていないことです。リーマン危機後の経済の大きな落ち込みを見た直後の2010年から比べても、1人当たりの生産額は7年間で3・2%、年率換算すると年平均0・4%の上昇にとどまっています。2000年からの17年間では生産性はゼロ成長です。
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
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 1人当たりの生産がどんどん増えれば、つまり労働生産性の上昇率が高ければ、売り上げや生産の増加計画の下でも人手を増やす必要はありません。しかし、労働生産性が上がらないとすれば、企業は売り上げや生産を増やそうと思うと、それだけ人を増やさねばならなくなり、生産年齢人口が減少する中でこれが続くと、人手不足をもたらします。

 つまり、最近の人手不足をもたらした原因の一つが、労働生産性が上がらないという事実にあります。15歳から64歳の「生産年齢人口」が減っているので、人手不足はやむを得ない問題ととらえがちですが、人為的な面も少なくありません。そればかりか、労働生産性が上がらないことが、同時に賃金上昇を低く抑えざるを得ない原因にもなっています。