従業員の賃金上昇は、原則労働生産性上昇の範囲内で行われます。つまり、労働生産性が2%上昇すれば、2%の賃上げが可能になり、その賃上げは企業のコスト負担にはなりません。賃金上昇率から生産性上昇率を差し引いたものを「単位労働コスト」といい、これが上昇すると、その分を製品価格、サービス価格に転嫁するか、転嫁しなければ企業の収益が減ることになります。

 政府の要請に応えて賃上げをしても、それが生産性上昇分を超えてしまうと、価格転嫁するか企業収益の悪化になるかどちらかとなります。昨今の日本の消費市場は低迷が続いていることもあって、値上げをした企業が苦戦を強いられるケースが少なくなく、むしろ流通業界の中にはあえて価格を引き下げて顧客を確保しようとするところも少なくありません。

 かといって、賃上げをして企業収益が減れば、株式市場からしっぺ返しを受けます。企業としては、生産性が上がらなければ、賃金も引き上げられないことになり、その生産性がこの20年でほとんど上がっていないので、継続的な賃上げはできないことになります。従って、企業収益が大きく拡大したときには、ボーナスで一時的に労働者に還元するのがせいぜいとなります。

 また、産業界は政府に働きかけて、必要な時に必要なだけの雇用を確保できる雇用体制を作り、低賃金でかつ社会保険料負担のない「非正規雇用」を使えるようにしました。2017年にはこの非正規雇用が全体の約4割を占めるに至りました。税務統計によると、2017年の正規雇用の年収493・7万円に対して、非正規雇用は175・1万円と、正規雇用の3分の1強にとどまっています。

 社会保険料負担がないことを考えると、企業の人件費負担は、非正規雇用にシフトすると、3分の1以下に抑えられます。これらを活用することで企業は生産性が上がらない中で人件費を抑えることが可能となり、その分値上げをしなくても済み、インフレ率が1%以下の低い水準を維持するとともに、人件費の抑制も利いて企業収益の拡大が可能となっています。
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
 人件費を抑えている分、労働者側から見れば所得が増えず、しかも一方で税や社会保険料負担が増えているので、実際に消費に回せる購買力(可処分所得)はさらに圧迫され、消費が低迷を続ける原因となっています。これらの原因が、いずれも労働生産性の伸び悩みからきていることになります。

 数字でもう一つ注目したいのは、2000年から2010年にかけては、少子高齢化、生産年齢人口の減少に伴って就業者数も減っていたのですが、その後は少しずつですが就業者数は増えています。これは女性や高齢者が就業するようになり、彼らの「労働参加率」が高まったことと、外国人労働者が増えてきたことによると見られます。そしてこうした「限界労働力」の増加が人件費を抑えるとともに、また生産性上昇を抑制している面も否めません。