濱口和久(拓殖大大学院特任教授)
(青林堂『日本版 民間防衛』より)

 日本は工作員天国といわれている。日本には世界の国ならどこでも持っている「スパイ防止法」がない。

 工作員にとっての天国とは次のような状態だ。①重要な情報が豊富な国、②捕まりにくく、万一捕まっても重刑を課せられない国のことである。

 日本は最先端の科学技術を持ち、世界中の情報が集まる情報大国でもある。しかも、日本国内で、工作員がスパイ活動を働いて捕まっても軽微な罪にしか問われない。スパイ活動を自由にできるのが今の日本なのである。つまり、工作員にとっては何の制約も受けない「天国」だということを意味している。

 アメリカに亡命したソ連KGB(国家保安委員会)少佐レフチェンコが「日本はKGBにとって、最も活動しやすい国だった」と証言している。ソ連GRU(軍参謀本部情報総局)将校だったスヴォーロフは「日本はスパイ活動に理想的で、仕事が多すぎ、スパイにとって地獄だ」と、笑えない冗談まで言っている。日本もなめられたものである。

 日本は北朝鮮をはじめとする工作員を逮捕・起訴しても、せいぜい懲役1年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していく。
 
 中国が得意とするスパイ活動に「ハニー・トラップ(甘い罠)」という手段がある。ハニー・トラップは、女性工作員が狙った男性を誘惑し、性的な関係を利用して、男性を懐柔、もしくは脅迫して機密情報を聞き出す諜報活動のことだ。中国にとって、ハニー・トラップはサイバー攻撃と並んで機密情報を奪い取るための重要な手段となっている。

 イギリス紙タイムズ(電子版)が2014年11月に報じたところによると、イギリス国防省の諜報機関の上級職員向けに、中国のハニー・トラップ対策マニュアルを策定。マニュアルは中国のハニー・トラップに関して「手法は巧妙かつ長期的。中国人諜報員は食事と酒の有効性を知り尽くしている」としたうえで、「中国の情報に対する貪欲さは広範囲かつ無差別だ」と分析。「中国には諜報員が存在するが、彼らは国の諜報機関の命令によって動く中国人学生、ビジネスマン、企業スタッフの裏に隠れている」と指摘した。

 また、中国でのイギリス製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)の汚職疑惑に絡んで、同社の中国責任者が自宅で中国人ガールフレンドとセックスしているところを隠し撮りされ、その動画がGSK役員らに送りつけられた。中国のハニー・トラップの標的になるのは、政府や諜報機関の関係者にとどまっていない。

 中国人女性工作員の“活躍”はイギリスだけではない。アメリカ軍の最高レベルの機密情報にアクセスできる立場にあった元陸軍将校が、国際会議で出会った女性と2011年6月から恋愛関係となり、戦略核兵器の配備計画や弾道ミサイルの探知能力、環太平洋地域の早期警戒レーダーの配備計画といったアメリカ軍の機密情報を伝えたという。この元陸軍将校は国防機密漏洩の罪などで逮捕、刑事訴追された。(SankeiBiz 平成28年1月11日付)

 中国人女性工作員は、日本人男性に対しても、ハニー・トラップを仕掛けてきている。中国の公安当局者が、女性問題をネタにして日本の領事に接近。この領事は総領事館と本省との間でやりとりされる暗号通信にたずさわっている電信官で、中国側は日本の最高機密であるこの電信の暗号システムを、領事に強要して手に入れようとした。だが、電信官は「自分はどうしても国を売ることはできない」という遺書を残して、平成16(2004)年5月に総領事館内で首吊り自殺をしている(上海日本総領事館領事の自殺事件)。
※画像はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
※画像はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
 領事の自殺により、電信の暗号システムの情報流出は防げたが、中国に出張した際、ハニー・トラップに引っ掛かった政治家、企業家、研究者(技術者)は1000人をはるかに超えているといわれている。彼らの中には、中国側が欲しい情報を提供したことがある日本人もいるかもしれない。いや、発覚していないだけで、間違いなく情報を提供していると考えるべきだろう。

 もしあなたが、これらの職業に就いていて、中国人女性が近づいてきた場合は、ハニー・トラップを警戒し、不用意に女性と深い仲にならないようにすべきだろう。また、中国人女性と結婚した自衛官は500人を超えている。その中には幹部自衛官も含まれる。女性から自衛官に接触し結婚したケースが大多数だ。自衛隊の情報が中国側に漏れているとしたら、日本の安全保障上にも影響を与えていることになる。

 実際、平成19(2007)年1月、神奈川県警が海上自衛隊第1護衛隊群(神奈川県横須賀市)の護衛艦「しらね」(イージス艦)乗組員の2等海曹の中国籍の妻を入管難民法違反容疑(不法残留)で逮捕。家宅捜索したところ、イージス艦の迎撃システムなど機密情報に関する約800項に及ぶファイルが発見されている。2005年6月に中国のシドニー総領事館の一等書記官だった陳用林がオーストラリアに亡命した。彼は、日本国内に現在1000人を優に超える中国の工作員が活動していると証言している。