片山修(経済ジャーナリスト、経営評論家)

 カルロス・ゴーンは、日本の自動車業界にとって「英雄」だったのか、あるいは「悪人」だったのか。

 日産自動車と三菱自動車の代表取締役会長を兼任し、仏ルノーの会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるゴーン氏が、有価証券報告書に自らの報酬を50億円も過少に報告していたとして逮捕された。他にも日産の投資資金の私的流用や経費の不正使用の疑いもあるという。

 ゴーン氏が、ルノーから倒産寸前の日産にCOO(最高執行責任者)として送り込まれたのは、1999年だ。ルノーは日産の株式の36・8%を取得し、傘下に収めた。翌00年、日産社長兼CEOに就任後、17年6月まで君臨し、今日まで代表取締役会長の職にある。

 ゴーン氏の功績は、数字を見れば顕著である。彼が社長に就任した当時、263万台に過ぎなかった日産の世界販売台数は、17年には581万台まで伸びた。

 さらに際立つのは、02年に「ルノー・日産BV」(非公開会社)と呼ばれる統括会社を設立し、ルノー・日産アライアンス(連合)という世界に類を見ないマネジメント体制を確立したことだ。ルノーは日産への出資比率を44・4%に引き上げ、日産もルノーの株式の15%を取得した。14年には、両社の間で「研究・開発」「生産技術・物流」「購買」「人事」の4機能について「一体運営」へと踏み込んだ。これは、いわばゴーン氏の「壮大な実験」だった。

 背景には、ゴーン氏の野望がある。米ゼネラル・モーターズ(GM)、独フォルクスワーゲン(VW)、トヨタ自動車の「世界ビッグ3」の一角に食い込み、さらに「世界一」を達成することこそ、彼の悲願だったと言っていい。
日産自動車のカルロス・ゴーン氏=2015年12月(寺河内美奈撮影)
日産自動車のカルロス・ゴーン氏=2015年12月(寺河内美奈撮影)
 16年、日産はゴーン氏主導で三菱自を買収し、ルノー・日産・三菱自の「三社連合」を構築した。買収を発表する会見の席上、ゴーン氏は満面の笑みを浮かべた。いよいよ、世界一が視野に入った瞬間だった。

 三社連合の世界販売台数は、17年に初めて1060万台と1千万台の大台に乗り、VWに次ぐ世界2位となった。倒産寸前だった日産がここまでの発展を遂げることができたのは、ゴーン氏のリーダーシップなしには有り得ないことだった。